佐藤有香さんは、ペアに挑戦するなど、引退してからもその滑りを進化させ続けてきた

有香さんは、ペアに挑戦するなど、引退してからも滑りを進化させ続けてきた (撮影=吉成大輔) 

スケート人生でいちばん辛かったこと

──「ここ一番」という試合でどうやって力を出すか。「練習のチャンピオン」として頑張り続けても結果が出なかった有香さんは、単身カナダに留学し、「80%~100%の練習を継続」することによって、徐々に手ごたえをつかんでいきます。勇気ある自己変革は、他のスポーツや仕事にも参考になると感じました。

佐藤:コーチや選手によってトレーニングのやり方や考え方はもちろん異なると思います。そして100%や120%の力で練習を続けられるならそのほうがいいのですが、私にはそれはできなかったので、可能なかぎり確実に、コンスタントに、効率よく続けるラインが80%~100%だったということです。80%は低く聞こえるかもしれませんが、それ以下であってはいけない。シーズンを通して調子のいいときは100%近く、悪くても80%の力を出せるような練習を続けることで、自信を得ていきました。

──21歳で現役を引退し、プロに転向されます。しかし念願のスターズ・オン・アイス(SOI/サラエボ五輪の金メダリスト、スコット・ハミルトンが設立した人気アイスショー)のレギュラメンバーになるまでに6年かかりました。

佐藤:スケーターとしていちばん辛い時期でした。当時のSOIの女子シングルの枠は3人で、カタリナ・ビットさんやクリスティ・ヤマグチさん、ルーチェン(陳露)さんといったスターがいましたから、私の入り込む余地はなかったのです。人生には運とタイミングというものがあります。ただ、幸運なことに、当時はアメリカでフィギュアスケート人気が高く、プロスケーターの仕事はたくさんあって、様々な経験を積むことができました。

──SOIという華やかで競争の厳しい世界で得たものは何でしょうか。

佐藤:選手によっても、国によっても、トレーニング方法やフィギュアスケートへのアプローチ方法は違います。たとえばカタリナ・ビットさんは旧東ドイツ出身の選手ですが、他にも旧ソ連といった共産圏の選手たちのものの考え方やアプローチの仕方は、私たちとは微妙に違うんですね。厳しいトレーニング環境を勝ち抜いてきた底力を感じる一方で、フィギュアスケートを愛する気持ちは共通するものがありました。そういった様々な国の一流スケーターと共演させていただいた経験が、私の宝になっています。パフォーマーとして成長できましたし、その後の指導者の仕事にもつながったと思います。

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