車いすユーザーは、車いすで轢いたりしないよう、周囲の人と一定の距離を保っている。その間にどんどん割り込んでくる人がいるのだ。エレベータに並んでいても、前に並ばれてしまう。水槽の前に行きたくても、次々と人が割り込んできて、動けない。そんな状況でも、長谷川選手は文句一つ言わなかった。
「人に見られているときはきっちりしたいところがあって。外出中でも、いちいちイライラしているのはダサい気がするんです。ちょっとイラッとしても、1回ぐっとこらえようとは考えていますね。できるようになってはいると思います」
カリカリしてすみません、と言うと『普通はそうだと思います』と気遣う。
きっかけはルックスが目をひいて気になりだした長谷川選手だが、こちらが学ぶことはあまりにも多い。
2022年2月に行われるはずだった車いすラグビーの日本選手権大会はコロナの感染拡大のため中止になってしまったが、クラブチーム日本一の座をかけて争うこの大会や、今後、世界大会でも長谷川選手の活躍をまた期待したい。
取材・文/和久井香菜子 撮影/加藤千絵、小澤晶子
【プロフィール】
長谷川勇基(はせがわ・ゆうき)1992年10月5日生まれ、広島県出身。車いすラグビー選手。2019年の国際大会で存在感を見せ、東京2020パラリンピックの日本代表に選出された。0.5点のローポインター選手の中でもボールを扱える選手としてチームの攻撃の幅を広げ、日本の勝利に貢献する。
和久井香菜子(わくい・かなこ)ライター、少女マンガレビュアー。視覚障がい者による文字起こしサービスを行う、合同会社ブラインドライターズ代表。障がいを持つ女子のためのフリーペーパー『Co-Co Life☆女子部』にボランティアで編集を担当したことがきっかけで、バリアフリーに興味を持つ。企画編集に『首都圏 バリアフリーなグルメガイド』(交通新聞社)、著書に『わたしたちもみんな子どもだった 〜戦争が日常だった私たちの体験記〜』(ハガツサブックス)がある。