キー局に地方局の泥くささはあるか
では、なぜ『オモウマい店』は現在の視聴者から受け入れられているのか。最大の理由と言われているのは、「出演者ではなく、企画や着眼点の面白さを前面に押し出した番組」だから。
バラエティの世界では長きにわたって、主に人気芸能人を軸に据えた企画・構成・演出が行われてきました。人気芸能人の名前を番組名に入れた冠番組がその最たるものです。
ところが近年は、その冠番組にかげりが見られ、好感度の高いサンドウィッチマン、バナナマン、博多華丸・大吉や、マツコ・デラックスさんら人気者の名前でも思うような成果を得られていません。これは視聴者が「誰がやるか」よりも、「何をやるか」を重視するようになったからでしょう。
一方、制作費の面で人気者をキャスティングしづらい地方局などは、「誰がやるか」ではなく「何をやるか」という企画で勝負してきました。時に「弱者の戦略」と揶揄されることもありましたが、『オモウマい店』のような企画重視の番組を好む視聴者が増えたことで、キー局も追随せざるを得なくなっているのでしょう。
ただ、ギャラの高額な人気者をキャスティングする「強者の戦略」が通用しなくなったキー局がコンセプトを踏襲するだけで、すぐに『オモウマい店』のような成果を収められるかは分かりません。
そもそも企画重視の番組には、入念なリサーチや地道な取材、また、それを実行する情熱が必要であり、これらこそが地方局の強み。実際、『オモウマい店』も「いい意味で泥くさい」、中京テレビの仕事ぶりが視聴者に伝わることで支持を得ているところがあります。
キー局に中京テレビの手がける『オモウマい店』のような愛すべき泥くさい仕事ぶりを感じさせる番組を手がけられるのか。成否を分けるポイントは、その一点なのかもしれません。
【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月30本前後のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組に出演し、番組への情報提供も行っている。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』『独身40男の歩き方』など。