「もちろんルサンチマンの塊だった僕も含めてです。これは何かというと時代や環境のせいにしてきた自分への戒めの書でもあるので。

 その『俺は悪くない』をみんなが少し抑え、事実と向き合うだけでも、世の中もっとよくなる気がする。登場人物たちの間にあるギャップは当然として、今の若者をオジサンたちが不甲斐なく感じ、『もっと頑張れよ』と言うのにも一理あると思うんです。僕自身、昭和世代の強引さに助けられた時もあるし、そのパワーのおかげで今の日本があるのも事実だから。

 そうした『一理ある』を先入観なく受け止め、自分をアップデートしないと何も変わらないのは世代を問わないと思う。つまりどんな立場にもある一理にフラットに耳を傾け、前向きに生かす、バランス感覚を僕は創作の際も大事にしたいと思っています。少なくとも100%の力で誰かを叩き、否定できる人間なんて、この世に誰もいないと思うんです」

 身近で感情移入しやすい導入部、そして二転三転する怒涛の展開を堪能しつつ、最後は自分を問われる油断のならない1冊だ。俺は、私は、本当に悪くないのか、感謝と謝罪を経て、今一度共に生きたい相手は誰なのかと。

【プロフィール】
朝倉秋成(あさくら・あきなり)/1989年生まれ。千葉県出身。大学卒業後、印刷会社の営業マンを経て、2012年『ノワール・レヴナント』で第13回講談社BOX新人賞Powersを受賞しデビュー。2019年刊行の『教室が、ひとりになるまで』や、2021年刊行の『六人の嘘つきな大学生』で注目され、後者は2022年本屋大賞第5位に選ばれた他、山田風太郎賞や吉川英治文学新人賞候補に。現在「ジャンプSQ.」連載中の『ショーハショーテン!』など漫画原作も手掛ける。173cm、66kg、A型。

構成/橋本紀子 撮影/国府田利光

※週刊ポスト2022年6月3日号

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