一方、悪い肥満は、お腹がぽっこり出ているりんご型肥満です。これは多くの場合、内臓脂肪によって太っており、生活習慣病や認知症など、さまざまな健康リスクが高い」
そもそも、体に脂肪がつくのは非常時のためだと、伊藤さんは言う。余ったエネルギーを中性脂肪として脂肪細胞に蓄積しておき、必要なときに分解して燃焼することで、熱を生み出しているのだ。
「脂肪をお金に例えると、内臓脂肪はいつでも簡単に引き出せてしまう“普通預金口座”。一方、皮下脂肪はいざというときのために備えておく“定期預金口座”です。ムダなく効率的に脂肪を“貯蓄”して必要なときに使うには、同じ肥満でも、内臓脂肪ではなく皮下脂肪が多い方が理想的です」(伊藤さん・以下同)
皮下脂肪と内臓脂肪のどちらが多いかは、脂肪細胞の質が関係している。「ダメな脂肪細胞」が増えると内臓脂肪が増えて、「ダメな肥満」になる。
「優秀な脂肪細胞は脂肪を蓄える容量が大きく、血糖値を下げるホルモンであるインスリンもうまく作用するので、糖尿病や高血圧になりにくい。一方、ダメな脂肪細胞は、脂肪を蓄える容量が少ないため、余った脂肪が内臓のほか、肝臓や筋肉にもたまる。その結果、健康リスクが上がるのです」
脂肪細胞は、脂肪をためて燃焼させるほか、ホルモンの分泌も担う。特に重要なのが“やせホルモン”ともいわれる「レプチン」や、メタボリックシンドロームの予防にも役立つとされる「アディポネクチン」だ。
「レプチンは、満腹中枢を刺激して食欲を抑えるホルモンです。脂肪細胞の働きが悪いと、レプチンが分泌されても満腹感を得にくくなり、食欲が止まらなくなります。アディポネクチンには炎症を抑える作用があり、傷んだ血管を修復して動脈硬化や高血圧のリスクを下げることに役立ちます。また、インスリンを効きやすくして、血糖値を抑える効果もある」(日比野さん)
インスリンは、体内に入ってきたブドウ糖をエネルギーに変えたり、余ったブドウ糖を脂肪として脂肪細胞に貯蓄させる働きがある。睡眠中など食事をしていないときは、インスリンが少なくなる。すると脂肪細胞は「エネルギー(ブドウ糖)が足りない」と判断し、蓄えていた脂肪をFFA(遊離脂肪酸)というエネルギーに変換・放出する。だが、ダメな脂肪細胞はインスリンの増減に対する反応が鈍く、充分なブドウ糖があってもFFAを放出し続ける。