だが、勝負の時が早まったという。
「黒田さんは失言の謝罪に追い込まれたことで日銀内部で威信が大きく低下している。そのうえ、残り任期は半年あまり。黒田氏の総裁退任後も残る審議委員たちは、これまでのように黒田さんに義理立てする必要がない。官邸と財務省は8月末が来年度予算の概算要求の締め切りだから、なんとしても7月の金融政策決定会合で金融政策の変更に道筋をつけたい」(同前)
これまで自分の方針を強引に押し通してきた黒田氏が7月会合で意見を否定されれば、いっぺんに総裁としての力を失う。黒田氏の人となりを知る与党議員はこう見る。
「あれほど誇り高い人だから、政策決定会合で自分の意見が否決された場合、残り任期の半年間に“金融政策を否定された総裁”として恥をさらすくらいなら、“早く後任を指名してくれ”と辞任を言いだす可能性もないとはいえない」
そして金融決定会合後の9月(早ければ8月中)には内閣改造・党役員人事が行なわれる見通しだ。
岸田首相は周辺に「参院選に勝てば人事は好きなようにやる」と漏らしており、高市早苗・自民党政調会長をはじめアベノミクス支持派を政策中枢から外し、「反アベノミクス政権」づくりを進めるという見方が強い。
だが、党内最大派閥を率いる安倍氏がそれを許すはずがない。安倍氏は党の会合で「次の日銀総裁もしっかりとしたマクロ経済分析ができる方にやってもらいたい」とアベノミクス路線継続をぶち上げたからだ。
岸田首相が黒田総裁の“クビ切り”に動いた時点で、岸田VS安倍の両陣営の抗争は激化する。
だが、国民は政争を見せられるより、本当の「物価の番人」に早く登場してほしいのだ。
※週刊ポスト2022年7月1日号