電力貯蔵施設から供給される電気によって、急な停電が起きても新宿線を走っている電車は次駅まで移動できる。駅まで移動できれば、そこから地上へと避難が可能だ。こうしたシステムにより、乗客の安全が確保されている。
蓄電した電気で、きちんと電車を走らせることができるのか? 6月25日の避難訓練は大規模停電という非常時に備えて、そのシステムがきちんと稼働するのかを試す訓練でもあった。
東京都交通局と同じように、東京で地下鉄を運行する東京メトロはどういった備えをしているのか?
「東京メトロでは銀座線の全編成、丸ノ内線の一部に非常用車上バッテリーを搭載しています。大規模停電が起きた際、これらのバッテリーを使って次駅まで走行します。それにより、乗客は安全に避難できます。丸ノ内線は、2023年度までに全編成に車上バッテリーの搭載を完了する予定です」と説明するのは、東京メトロ広報部の担当者だ。
銀座線と丸ノ内線は、他社線と相互乗り入れをしていない。その対策として、車上バッテリーを搭載して非常時に備えている。
しかし、他社線と相互乗り入れをしている他路線はそうはいかない。他社の電車に手を加えることができないからだ。そこで、東京メトロは2016年に東西線と日比谷線、2017年に東西線と千代田線の計4か所の変電所に非常用地上バッテリーを設置した。
「東西線・日比谷線・千代田線に非常用地上バッテリーを設置したのは、3線に長大橋梁区間があるからです。長大橋梁区間を走行中に大規模停電が発生してしまうと、乗客の避難が困難になります。そうした乗客の安全を図るために、一時的に電気供給が可能な変電所を設置しました。これにより、次駅まで電車が走行できるようになっています」(同)
こうした各社の取り組みによって、大規模停電が起きても乗客の安全が確保されているというわけだ。
ちなみに、2022年3月にも大規模停電の危機があった。そのときに鉄道各社は使用していない券売機や路線図・運賃表の照明をオフにするなどして節電に励んでいる。その教訓を活かし、今回の電力危機においても鉄道各社は節電を実施している。
しかし、「階段や通路は転倒・転落の危険性があるので、照明を落としたり暗くしたりはできません」(東京メトロ広報部)という。
時代とともに鉄道は省エネ化し、電車を走行させるときに必要となる電力量は減少している。また、鉄道各社は非常時に備えて自家発電に取り組んでいるが、すべての電力を賄えるほどにはなっていない。
幸いにも、これまで東京の機能が停止するような大規模停電は起きていない。奇しくも、電力危機は電気がある生活が当たり前ではないということを改めて考える機会になった。鉄道会社は信頼される公共交通機関となるべく、日頃から省エネ・節電・自家発電というリスクヘッジを講じて、今後も安全運行のための工夫を重ねていくことになるだろう。