事務所のスタッフからは演説先に直接行ってくれ、と言われ、有楽町駅前で演説する予定の海老沢陣営を見つけに行った。
ボランティアとして働きたい旨を告げると、その場で、維新のロゴが入ったライムグリーンのポロシャツを手渡され、すでに着ているポロシャツの上から重ね着する。“丸ビラ”の入った選挙用の腕章が付いたポーチを受け取り、駅前で丸ビラを配った。ボランティアの役目とは、海老沢が街頭演説をする間、周囲でひたすら丸ビラを配ることだった。直後に撮った集合写真の中央には海老沢と応援演説にきた猪瀬が収まり、その後ろに私が写り込んでいる。
ボランティアを始める際、私が訊かれたのは名前だけ。「横田」と答えた。住所も電話番号も訊かれることなく、身分証の提示も求められなかった。ただ、LINEのIDだけは伝え、すぐにグループLINEに入れてもらった。海老沢の選挙に関するさまざまな情報が流れてくるLINEのメンバーは160人ほど。
身元の詳細を尋ねられなかったのは私だけではない。この日、有楽町から渋谷に移動してビラ配りをしていると、30代の男性がボランティアスタッフとして働きたいと言ってきたときも同じ対応だった。
要するに、来るもの拒まずなのだ。
海老沢の街頭演説は、マイクを使った選挙活動が認められている午前8時から午後8時まで続く。午前中に4、5か所を回り、午後も同じ数だけ回る。週末も休みはない。私は選挙期間中、東京選挙区の他の候補者の活動もチェックしていたが、海老沢ほど街頭演説をする候補者を見つけることはできなかった。まさに「どぶ板選挙」だ。海老沢は、テレビ取材が入った日の午前中を除いて、1日12時間のスケジュールで東京中を飛び回った。
海老沢が1日で回る演説場所を、ボランティアが全部ついて回るのは難しい。海老沢が車で回るのに対し、私たちボランティアは移動に公共交通機関を使うからだ。1日12時間で10か所を回り、その間にビラを配るのではとても体力が持たない。私は、1日のうち3、4か所を選んで参加した。いつ参加するのか、いつ帰るのかは、ボランティアの自由。事前の申告も必要なかった。
(後編に続く)
【プロフィール】
横田増生(よこた・ますお)/ジャーナリスト。1965年福岡県生まれ。関西学院大学を卒業後、予備校講師を経て、アメリカ・アイオワ大学ジャーナリズム学部で修士号を取得。1993年に帰国後、物流業界紙『輸送経済』の記者、編集長を務める。1999年よりフリーランスとして活躍。2020年、『潜入ルポ amazon帝国』で第19回新潮ドキュメント賞を受賞(8月に『潜入ルポ アマゾン帝国の闇』と改題し刊行予定)。近著に『「トランプ信者」潜入一年 私の目の前で民主主義が死んだ』。
※週刊ポスト2022年7月29日号