『八甲田山死の彷徨』など山岳小説の分野を拓いた作家の新田次郎は、気象庁職員で、富士山気象レーダー建設責任者でもあった(時事通信フォト)

『八甲田山死の彷徨』など山岳小説の分野を拓いた作家の新田次郎は、気象庁職員で、富士山気象レーダー建設責任者でもあった(時事通信フォト)

 イラストレーターは誰もが知る人気絵師でもイラスト専業ではファンが思うほどには稼いでいない。個人の画集など、よほどの大家か大ヒットを記録したイラストレーターでなければ難しいだろう。それすら部数は人気漫画ほどではない。基本、続刊もないし人生で何冊出せるか、というレベルである。イベント展示会前の路上で女性が声をかけて場内へ誘うなどして市場価格より高額な値段で売りつけると批判された絵画商法に一部の絵師(本当にごく一部なのだが)が加担する理由でもある。

「一般なら広告絡みですね。あとはゲーム案件を請けたり、男性向けもできるならもう少し稼げるし専業の場合もありますが。とくに目立つところではラノベの絵師など兼業多いと思いますよ、そもそもラノベ作家(小説家)そのものが兼業ばかりなんですから。いつ人気がなくなるかわかりませんし、そもそも人気がでないままかもしれませんからね、保険の意味でも辞められません」

 こうした仕事もまた古くからある「副業」である。「夢のため」「専業になるため」として取り組むサラリーマンの副業である。サラリーマンをしながらクリエイターを目指すというのはそれこそ明治時代の文豪からしてそうで、商業デビューしてもサラリーマンと兼業、副業というケースは多い。本旨ではないため踏み込まないが、ともかく日本の多くのクリエイターもまた、読者やファンが知らないところで兼業・副業として創作をしている。

 また、この改革案が通ったとして「反証」により商業作家であり、事業として創作をしているという主張が通るかはわからない。また「どちらが本業か」という問題もあり、仮に200万円を被雇用者として、200万円を創作で稼ぐクリエイターの場合、後者を本業だとして青色申告しても税務署が前者と判断する可能性もある。こうした「作家」業は、仕入れや発注主としての仕事がほぼないことが多いため売上げ=収入に近い状態であることが多い。機材や資料といっても、である。「300万円以上稼げばいい」という無責任な声もあるが、これについては筆者の友人であるアニメーター氏(彼自身は専業)がこう語る。

「年齢にもよりますが、個人事業主のアニメーターで年間売上300万円もあったら、若手なら立派なものですよ。そもそもアニメ制作会社の給料だって年収300万円とか普通なのに、業務請負の単価仕事で300万円稼ぐのって大変ですよ。フリーの新人なら100万円いかないと思います」

 あくまでアニメーターとしての話で案件にもよるのだが、それなりの経験を積んだ第一原画でもそのくらいか、多少超える程度だと思う。アニメーション業界全体となればプロデューサーや監督なども含まれるため平均値は上がるが、アニメーターに限れば改善の傾向がみられるとはいえ作業量や求められる能力に比べればまだ安い。

「昔は副業のアニメーターって限られてたんですけど、デジタル作画になって工程を細かく、遠隔地でも分担して作業できるようになりましたからね。十分な戦力です。副業を一緒くたに悪みたいに決めつける今回の改革案は賛成できないですね」

副業転売ヤーは申告なんてしないだろうね

 今回の改革案は先にも書いた通り、副業と称して青色申告とそれに付帯する経費、とくに損益通算によって赤字計上で脱税を繰り返す連中が狙いなのは確かだろう。しかしごく一部を口実に全体まで適用するのはどうか。そういう連中は脱法行為をなんとも思っていないし、まず税務署が来ることもなければ、来たとしても修正申告で済む、追徴もたいしたことはないと高をくくっている。無申告加算税は50万円で15パーセント、100万円以上で20%、これも絶対くらうとは限らない、修正申告指導のみのお目こぼしでラッキー、というケースも多い。別に脱税を推奨しているわけではないが、これが現実である。

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