「子育てサポート企業」と認定された企業に与えられる「くるみん」のマーク[厚生労働省提供](時事通信フォト)

「子育てサポート企業」と認定された企業に与えられる「くるみん」のマーク[厚生労働省提供](時事通信フォト)

 しかし、制度の利用を考えていた沢井さんにしたって、一方的に助けてもらうだけのつもりは無かった。子育てが一段落したときには、先輩達は家族の介護のために時短勤務を選ばざるを得なくなるかもしれないから、そのときには協力したいと考えていたのだ。お互い様の制度とは今は思えないかもしれないが、わざわざ非難がましい嫌悪をあからさまにする大人げなさには、どう対処したらよいのか分からない。一朝一夕に職場の雰囲気が変わるとも思えないので、自分のときにはどうなるのかと考えるだけで暗い気持ちになってしまう。

 いったん離職してしまうと、子供がいる状態からの再就職活動が厳しいため、できれば同じ場所で仕事を続けたいと沢井さんは考えている。子育て支援制度をめぐる職場の嫌な雰囲気を体験するまでは、給与面などで条件が変わっても仕事を継続したい子育て中の女性と、働く人の確保をしたい会社にとって、支援制度はお互いにメリットがあるのだろうと思っていた。だが今は、女性だけが得をしていると本気で思っている人たちに囲まれてまで仕事を続けられるか、自信を失いかけている。

 そんなナイーブなことでは、どんな職場でもワーキングママなんて無理だという声もあがるかもしれない。とはいえ、無理して働かないならば去れ、という選択肢しか用意されていないのは「ワークライフバランス」や「働き方改革」の必要性が叫ばれるなか、極端すぎないだろうか。

 制度はあっても、同僚や先輩にそれらを受け止める雰囲気が醸成されていない職場もやっかいだが、そうした制度を使う事が許される「条件」が、明文化されない運用ルールとして存在していることもある。千葉県内在住の飲料メーカー社員・伊藤忠文さん(仮名・40代)が証言する。

「弊社にも子育て支援制度はありますが、取得できる立場がなんとなく決まっていて、既婚の30代女性であることが暗黙の了解になっている。新入社員や20代だと、まだ早いとか、仕事で他の社員に迷惑がかかると圧をかけられ、それが原因で結婚後に退職せざるを得なくなった女性もいます」(伊藤さん)

 伊藤さんの会社では「子育て支援」に取り組む姿勢を社内外にアピールしている。実際、営業成績などが優秀な社員を表彰するのと同様に、子育てと仕事を両立させている社員に「パパアワード」や「ママアワード」なる賞を授与する仕組みもあるというのだが、すでに形骸化して久しいのだとこぼす。

「アワード受賞者を各部署から一人出せ、という上の意向があり、会社の子育て制度が利用しにくいことを理由に、結婚と出産で退職予定だった若い女性社員を慰留させ、非正規社員として再雇用したこともありました。その女性は”利用されているようで不愉快”と言い残し結局その後、退社しました。表彰制度は対外的なアピールにしかなっておらず、現役で子育てをしている身からすると、まともな制度とは言えませんよ」(伊藤さん)

 コロナ禍で業績が落ちたという伊藤さんの会社。子育て支援のための一時的な支援金が支給されているが、給与は減少の一途。そうした中で、やはり子育て支援を受ける社員は「ずるい」と陰口をたたかれていると言うから、やはり制度に対する認識の溝は未だ深いと言わざるを得ない。

 子育て支援制度の利用を、自分に都合よく使ってしまうだけの人も皆無ではないだろう。だが、利用者のほとんどは、周囲の協力が前提であることは心苦しいけれど、他の人が子育てでも介護でも支援制度を利用するときには、経験を生かして効率よい働き方を提案するなど、仕事を継続することで貢献したいという意欲を持っているはずだ。高齢化がすすむ今、弾力的な働き方を選ばざるを得なくなる労働者が、子育て世代以外にも増えてゆくことを思えば、誰にとっても現実的な問題だろう。

 日本の人口、特に労働者人口が減少しつづけている今、制度の利用そのものを咎めている場合なのだろうか。また、制度を導入すれば終わりではなく、運用が現実的なのかどうかも雇用側は気を配る必要があるのではないだろうか。社員の名刺に子育てサポート認定企業にゆるされる「くるみんマーク」をつけたり、SDGsバッジを社員につけさせたりすることだけで、働き方改革をしたことにはならないだろう。

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