2022年2月、岡山県警は、吉備津彦神社(岡山市)の節分祭に合わせて「はさみ紙」の配布を始めた。御朱印帳のにじみを防ぐために間に挟む紙を「はさみ紙」という(時事通信フォト)

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 その施設で働く従業員も様変わりし、不良風の若い男女ばかりが働くようになったが、施設前の路上で集団でタバコを吸ったり、轟音のバイクで通勤するなど、近所中でも悪評が広がりつつあった。そんなとき、坂口さんの若い部下があることを教えてくれた。

「新しい経営者は、地元では有名な特殊詐欺犯で、彼は年の離れた後輩に無理矢理に詐欺をやらせてお金を儲けていたそうです。他にも、人気フィギュアの偽物をネットで売ったり、車の窃盗をやったりしていたと。何故逮捕されないのかとみんなが疑問に思っていたそうです」(坂口さん)

 その噂話がすべて真実かどうかは分からない。だが、地域の口コミで言われている内容は、単なる噂話で済ませるにしては、具体的すぎた。おそらく、語られていることからあまり遠くない行為に手を染めていたのだろう。とはいえ、それは過去のことで、これから真面目に高齢者福祉に取り組むのであれば、たとえその資金の出所が怪しくても問題ないと考えようとした。だが、坂口さんはこの経営者の男が口走った一言が頭から離れないという。

「ご挨拶に来られたとき、なぜお若いのに介護をと聞いたんです。そしたら、介護は食いっぱぐれがないし、老人は家族のお荷物だから、仕事はなくならない、というようなことを仰っていたんですね。びっくりして返す言葉もありませんでした」(坂口さん)

 高齢化がすすむ日本で介護ビジネスが必要とされているのは事実だが、それをあけすけで利己的な表現で口に出してしまう経営者には、唖然とさせられて当然だろう。それでも、口が悪いだけで行動力はある人なのかもしれないと、その後の様子を見守っていた。

 しかしこの介護施設は、コロナ禍を経て、すでに利用者がほとんどいなくなっている。それどころか、スタッフまで次々と入れ替わり常に人が足りない状態が続いている。それでも施設の事業が縮小される気配もなく、事業継続資金の出処はどうなっているのかと思われている。

 気がかりなのは、高齢者施設など福祉の世界は様々な助成金や給付金などの制度が存在していることだ。そして、それらをきちんと利用者のために使う仕組みは、今のところ性善説によって保たれている。実際に、経営に行き詰まった施設が、目先のお金が欲しくて福祉の制度を悪用する事例は無くならない。始まりの事業資金が犯罪収益だったと言われる施設は今後、どうなるのかと周囲は固唾を呑んで見守っている。

 このように、私たちの社会には今も、特殊詐欺に手を染めたにも関わらず、そして金を奪ったにも関わらず平然と生活し、その金で新たな「事業」を起こす人たちが少なからず存在する。彼らが新たなステージで「成功」するパターンは結局そう多くないのかもしれないが、犯罪収益を事業資金にしたと言われたら気分が悪くなるのが普通だろう。通常なら、コツコツ貯めたり、事業計画を立てて銀行に融資してもらうなど苦労を重ねてこぎ着けるものだからだ。

 とはいえ、彼らが本当に更生して、誰に見られても恥ずかしくない正業を積み重ねるのであれば、安定した社会の運営に貢献するようになったといえるだろう。ところが、そこでうまくいかなくなったからといって、新たな詐欺に手を染めるのであれば、やはり反社会的な存在だったのかと思わずにいられない。逮捕されないまま逃げ切って、しかも犯罪収益を利用できてしまったために「もう一度くらい、騙しても大丈夫」という慢心を生むのだとしたら、やはり特殊詐欺に手を染めた者たちは、きちんと逮捕されて法の下で裁かれた上で反省し、更生するという段階を踏むべきであろう。

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