「野宿」「独居」で見える月

 そのほかにも、放哉と山頭火には「月」をモチーフにした俳句がいくつもある。いずれもその句から見えてくる世界は奥深い。

「枯草しいて月をまうへに」 山頭火

〈[中略]野宿の句が多い。この句のように枯草を敷いて寝て、月を真上にして眠るとは、贅沢なかぎりである。むろん御本人はそれどころではないのだが、少なくともこの句からは切迫したものを感じないのである。行乞放浪というよりは遊行と言いたいような表情を感じるのだが、どんなものか〉(金子氏)

「うそをついたやうな昼の月がある」 放哉

〈[中略]放哉も昼に月が出ることがあるのは分かったうえで、「うそをついたやうな」という言葉を選んでいる。簡単には受け入れられない微妙な感覚を表現しているのだろう。夜に一人で眺める月には自分の感傷さえもさらけ出していたりするだけに、昼に出合うと白々しさがあるというのはよく分かる〉(又吉氏)

「旅空ほつかりと朝月がある」 山頭火

〈1939(昭和14)年11月1日の句。風来居を出て、旅をつづけて小豆島に渡り、徳島へゆき、四国巡礼に入る。この日から『四国遍路日記』を書きはじめた。[中略]その朝に詠んだこの句、「ほつかり」は山頭火特有の言い方で、さほど独特の句というわけではない。だが、従来の旅立ちのものにくらべるとこころなしか、少し澄んでいるようなところが感じられる。これは最後の巡礼という心意によるものだろう〉(金子氏)

「をそい月が町からしめ出されてゐる」 放哉

〈深夜まで起きていて町が眠ったように静かだと、自分だけがこの夜を体験していて、自分だけがこの月を見ていると感じてしまうことがある。月は社会に縛られることのない天体なのだから、本当の意味で町から締め出されているのは月ではなく自分である〉(又吉氏)

 漂泊・独居しながら句作を続けた2人だからこそ、静かに世を照らす月というものを身近に感じられたのではないだろうか。自由律俳句は季語に縛られることもないから、季節をことさら意識することなく、より月の存在感が際立つようにも思われる。

 よい月が出ていたら、これらの自由律俳句を思い出しながら、一人の時間を過ごすのもいいかもしれない。

※金子兜太・又吉直樹『孤独の俳句 「山頭火と放哉」名句110選』(小学館)より一部抜粋・再構成。
【参考文献】村上護監修・校訂『定本山頭火全集』(春陽堂書店)、村上護編『尾崎放哉全句集』(ちくま文庫)

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