「台本のセリフは移動中に耳で聞きながら、声に出して覚えます。英語のシャドーイングのように、耳から入ったセリフを口に出して繰り返すんです。僕が出るシーンの登場人物全員のセリフをすべて自分で演じて録音し、そのシーンの全員のセリフを全部覚えます。僕のセリフは少なくても、“僕も貴方がたと同じ立場で臨ませていただきます”と」
昨年8月、13人の中の1人に決まったとの電話をマネージャーから受けた時は、寝床で熟睡中だったと笑う。
「僕は毎晩8時に寝て、翌2~3時に起きる生活を続けているのですが、その日は夜7時半ごろに就寝したんです。電話が鳴ったのは、ちょうど眠りが一番深くなる夜8時半~9時ごろでした。熟睡していたので、いきなりマネージャーの興奮した声で『13人の1人に決まりました!』と聞いても、なにがなんだか(笑)。わかりました、とあっさり電話を切ってしまいました。寝起きだったこともありますが、実はその時期、もう俳優やめようかなと引退を考えていたので、『……? えええーーーっ!』という感じでした」
引退を考えていた理由を聞いた。
「その頃、仕事がどんどん減っていました。日々、マネージャーが営業に奮闘してくれていましたが、なかなか決定をもらうことができず、僕のニーズがなくなってきたんだと思い、引退間近かなという心境になっていました」
背景には、60代前半の役者が直面する“壁”あったようだ。野仲さんが吐露する。
「60代前半といったら会社で言えば役員や部長以上の管理職とかで、そういう役はあまりないし、サラリーマン役など働いている人の役もなくなってくる難しい年齢なんです。かといって、おじいさん役を演じるには年相応に見えない。若くも高齢にも見えないわけです。役者としての限界がきたと覚悟を決めていた時でもあったんですよね。ニーズがない、もう引退かなと思っていた頃に出演が決まった『鎌倉殿の13人』は、まさに寝る子を起こしました(笑)」
いぶし銀の演技が光る野仲さんの「二階堂行政」、最終回まで目が離せない。
聞き手/上田千春
【プロフィール】
野仲イサオ(のなか・いさお)/1959年生まれ、大分県出身。俳優。三谷幸喜が主宰した劇団「東京サンシャインボーイズ」に数多く客演し、テレビ・映画、舞台で活躍。NHK大河ドラマは『徳川慶喜』『新選組!』『平清盛』などに出演し、『鎌倉殿の13人』では二階堂行政を好演している。趣味はクラッシックバレエ、トレッキング。特技は日常英会話。
■大河ドラマ『鎌倉殿の13人』NHK総合ほか 日曜夜8時~
12月4日の放送 第46回「将軍になった女」
新たな鎌倉殿を迎えようと朝廷に伺いを立てる北条義時(小栗旬)、大江広元(栗原英雄)たち。実衣(宮澤エマ)が野心を燃やし、三浦義村(山本耕史)が暗躍する中、京では鎌倉への不信感をさらに高めた後鳥羽上皇(尾上松也)が、藤原兼子(シルビア・グラブ)、慈円(山寺宏一)と共に今後を見据え、鎌倉への圧力を強めていく。一方北条家では、思い悩む泰時(坂口健太郎)をよそに、のえ(菊地凛子)が愛息・政村(新原泰佑)を……。
※配信サービス「NHKプラス」では放送から7日間見逃し視聴が可能