「白い壁に絵、という“いわゆる個展”をやってみたいなと思っていたんですけど、またちょっと違うところに行ったみたいです(笑い)」
と香取さんが会見で話していたように、会場にはスモークが焚かれていたり、音楽が流れていたり。やっぱり“いわゆる個展”では終わらない。音楽は、草彅剛さん主演映画『ミッドナイトスワン』の音楽も担当した渋谷慶一郎さんが手がけている。
「なんでこうなっちゃうのかなと思ったんですけど、やっぱりショーとかライブで育ってきたので、照明さんや音響さんとの打ち合わせが多かったり、特効(特別効果・スモークなど)の分量とか、コンサートを作っているような感じでした」(以下カッコ内、香取)
そして、会場の照明の演出はまさに“闇と光”で、その対比には思わず、わぁ!っと声を上げてしまいそうだった。
「前向きで上を向く光の部分と、もうちょっと深い部分で、下を向いてしまう時の闇な部分。作品をカテゴライズしていって、闇と光に分けました」
たとえれば、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番。悲しみに寄り添うように重厚に始まって、そして美しいメロディーで心洗われるように希望を見いだし昇華していく・・・・・・会場を進んでいくとそんな心の動きが味わえる構成だ。
「いろんな顔をもっている自分、常に変化している自分。ポジティブな『WHO AM I』もあれば、時には下を向いてしまう時間もあったり、その両面をこの個展を通じて、僕の絵を通じて、僕の中身をもっと皆さんに知ってもらいたい」
とも香取さんはコメントしていた。誰もがいろんな面を持っていて、そのどれもが自分だから、「自分て何なんだろう」と問いかけながら生きていけばいい。そんな自己肯定感を与えてくれるエネルギーを受け取れた。
会場を後にして思ったことがある。三十三間堂に並ぶ1001体の千手観音像、その中には自分と似た仏像があるという。この個展でも200点の中から、今の自分にはまさにこれだ、と心に刺さる作品を一人ひとりが見つけられるのではないか、と。私もある作品の前でしばらく動けなくなった。
「一人でも多くの人に知ってもらいたい。しんごちゃんの絵を見たことがない人や、少しでも見たことのある人には、こんな絵もある、とより深いところを知ってもらいたいです」(香取)
ほんとうに新たな深い面を知れたし、ものすごく刺激を受けることができた。
文/小野裕人
【プロフィール】小野裕人(Yuto Ono)/アーティスト。絵を描く過程を動画で見せる手法を用いる。2023年1月15日までハワイ・ホノルルで、1月20~22日東京・銀座で開催の個展『小野裕人展』では、絵画作品の鑑賞