官邸の強化を図らないとこの政権は持たない
岸田翔太郎秘書官の話に戻るが、この人事は、合法的だし、前例がない話でもない。総理の秘書には、総理大臣秘書官、議員としての公設秘書、私設秘書と三種類ある。前二者の給与は国から支給され、後者の給与は政治団体から支出される。
総理の8人の秘書官のうち省庁から派遣された人6人(財務2人、外務、経産、防衛、警察一人ずつ)以外は二人で、政務担当と呼ばれるが、その一人は筆頭格の嶋田隆氏(経済産業省出身)で、もうひとりが岸田首相の秘書だった山本高義氏だった。
学生時代から岸田の事務所でアルバイトとして働き、政策秘書(事実上の筆頭秘書)や外務大臣秘書官として岸田を支えてきた。岸田を総理にするために30年間、頑張ってきたのだから、いちどは総理秘書官にし、一年がたったので、息子に譲ってくれということになったようだ。
総理の息子で秘書官といえば、福田赳夫元総理の長男・福田康夫が典型だ。丸善石油に勤めていた康夫は政治家になる気がなく、福田赳夫の秘書は、次男で横手家に養子に入っていた横手征夫がつとめていた。横手征夫は、外相秘書官でもあったが、福田赳夫が総理になったときに、横手が体調を崩していたのと、跡継ぎは長男という総理夫人の意向で総理秘書官には康夫が就任した。
大平正芳首相は、娘婿の森田一(元運輸相)を首相秘書官にしたが、大蔵官僚としての就任で政務秘書官の枠を喰わなかった。
総理秘書官に資格は要求されないが、年齢が分不相応に若いとか、専門知識がないとお手盛り批判は避けられない。翔太郎は31歳というから、ちょっと若すぎるし、慶応大学法学部卒業後、商社勤務を経て父親の秘書になっているので秘書歴も短い。
となると、もう少し待ってもいいはずという批判が出ることは予想できた。そういう意味では、政権の前途が不安なのでと早めに前倒ししたといわれても仕方ない。
そうでなくとも、岸田氏には安倍政権の今井尚哉秘書官のような、頼りになる『代理人』がいないといわれている。本来は、そういう役割に向いた人を充てるべきだったのではないか。また、そういう人がいないとすれば、これまで長く総理候補と言われてきたのだから、準備不足を責められるべきだろう。
今からでも遅くないから、内閣改造と官邸スタッフの一新をしてはどうか。翔太郎政務秘書官もその際に辞めさせたら、同じ辞めさせるにしても非情という印象を少し緩和することになるだろう。