その後も、曲がったことが大嫌いな町の人気者、魚屋の一心太助、江戸の名岡っ引き、銭形平次、火事に泣く江戸の人々を救う町火消し、め組の辰五郎、さらには江戸を騒がす義賊・ねずみ小僧など、多彩な役柄を舞台で演じてきた。どの役も繰り返しドラマや舞台に出てきた人気キャラクターばかり。平成以降、これだけの有名キャラを演じた俳優は、他にいない。
氷川は、こうした役柄の継承と「著名歌手がお芝居と歌で楽しませる」商業演劇の伝統の継承、ふたつの継承を担っていたのだった。
私は十年以上、彼の座長公演を見続けてきた。太助は天秤棒を担ぎ、平次は十手でポーズを決め、ねずみ小僧は千両箱を抱えて走る。これらの役は決めセリフ、立ち回り、力強さや気風の良さなどキャラの固定イメージも強く、演じる際にはそれを壊せない難しさ、葛藤はあったはずだ。
今年7月に出た『甲州路』は、股旅演歌。まさに原点回帰。令和にも股旅の風を吹かせた。MVで若草色のスーツに菜の花色のシャツで、こぶしをきかせて歌う氷川は、どこかのびのびとして見える。新たなるステージが、どんなものになるかは予想できないが、さらにのびやかに帰ってきてほしいと思う。