国際情報

韓国で安重根題材の映画『英雄』が大ヒット 行き過ぎた反日感情を感じさせる場面も

2022年12月8日の『英雄』試写会(写真=OSEN/共同)

2022年12月8日の『英雄』試写会(写真=OSEN/共同)

 昨年12月21日に韓国で公開された『英雄』なる映画が、260万人超の観客動員を記録する大ヒットとなっている。題材は伊藤博文を暗殺した安重根(1879~1910年)、つまり「反日英雄」である。

 韓国で名匠として知られるユン・ジェギュン監督の新作映画『英雄』は、安重根義挙100周年の2009年に初演されたミュージカル『英雄』が原作となっている。伊藤博文の襲撃を謀った安重根が、死刑判決を受けて死を迎えるまでの1年を描き、ミュージカルで安重根を演じたチョン・ソンファが映画版でも主演を務める。人気の韓国ドラマ『トッケビ』や『シスターズ』で知られるキム・ゴウンも、物語の鍵となる女官を演じている。

すすり泣く声が響く

 実際に『英雄』を観た漢陽女子大学助教授の平井敏晴氏はこう語る。

「演技派で知られる豪華キャストが揃っているだけあって、演技や歌が素晴らしい。特に主演の俳優は驚くほど安重根に似ていました。重い題材なのにミュージカル映画ということもあって、エンタメとして楽しめるようになっている。女性の観客も多く、すすり泣く声が響いていたのが印象的でした。

 安重根の母親役(ナ・ムニ)は日本でいう赤木春恵さんのようなベテラン女優で、刑務所にいる息子に死に装束を送り、死刑判決に控訴することは大日本帝国に命乞いをすることだから正義のために死を選びなさいと手紙を書く。その母が歌う場面は圧巻で、韓国人なら誰もが泣いてしまうような劇中のハイライトとなっていました」

 だが、行きすぎた反日感情を感じさせる場面もあったという。物語の序盤、「なぜ朝鮮の強制統治に反対されるのか?」と側近に聞かれた伊藤は、韓国を犬にたとえてこのような台詞を口にする。

「犬を手なずけるには2つの方法がある。ひとつはボコボコになるまで殴る。もうひとつはとても可愛がって言うことを聞かせる。今の朝鮮は後者だ。もしそれで出しゃばったことを言い始めたらボコボコに殴ればいい」

 そうした劇中の台詞からは、史実を無視したような歪曲も感じられたと平井氏は語る。

「伊藤博文は朝鮮人だろうが日本人だろうが好みの女性とは関係を持とうとする女好きで野望に満ちた人物として描かれています。当時はまだ使われていなかった『大東亜共栄圏』という言葉が出たり、日本の統治下となったのはもっと後にもかかわらず『日本には満州があるんだ』と口にしたりする。軍国主義の悪い要素をすべて伊藤に集約させてしまい、反日感情を露わに作られた物語ということは伝わります」

 キム・ゴウン演じる架空の女性ソルヒは、伊藤がハルビンを訪れるという機密情報を独立軍に伝える重要人物だ。

関連キーワード

関連記事

トピックス

不倫疑惑に巻き込まれた星野源(『GQ』HPより)とNHK林田アナ
《星野源と新垣結衣が生声否定》「ネカフェ生活」林田理沙アナが巻き込まれた“不倫疑惑”にNHKが沈黙を続ける理由 炎上翌日に行われた“聞き取り調査”
NEWSポストセブン
主犯の十枝内容疑者
【青森密閉殺人】会社社長の殺人を支えた元社員は覚醒剤常習者「目がイッちゃって…」「人を殺すなら中国人に頼めば5〜6万円で跡形もなく……」の意味深発言
NEWSポストセブン
辛口評論家たちは今季の巨人をどう見ているか(阿部慎之助・監督)
江本孟紀氏が語る今季の巨人「阿部監督には派手さがない。それがいい」「もし優勝でもすれば、MVPは1年早く辞めた原前監督だと思いますね」
週刊ポスト
亡くなったことがわかったシャニさん(本人のSNSより)
《ボーイフレンドも毒牙に…》ハマスに半裸で連行された22歳女性の死亡が確認「男女見境ない」暴力の地獄絵図
NEWSポストセブン
殺人を犯すようには見えなかったという十枝内容疑者(Facebookより)
【青森密閉殺人】「俺の人生は終わった」残忍な犯行後にキャバクラに来店した主犯格の社長、女性キャストが感じた恐怖「怒ったり、喜んだり感情の起伏が…」近所で除雪手伝いの裏の顔
NEWSポストセブン
長男・正吾の応援に来た清原和博氏
清原和博氏、慶大野球部の長男をネット裏で応援でも“ファン対応なし” 息子にとって雑音にならないように…の親心か
週刊ポスト
殺害された谷名さんの息子Aさん
【青森密閉殺人】手足縛りプラスチック容器に閉じ込め生きたまま放置…被害者息子が声を絞り出す監禁の瞬間「シングルで育ててくれた大切な父でした」
NEWSポストセブン
竹内涼真と
「めちゃくちゃつまんない」「10万円払わせた」エスカレートする私生活暴露に竹内涼真が戦々恐々か 妹・たけうちほのかがバラエティーで活躍中
女性セブン
大谷が購入した豪邸(ロサンゼルス・タイムス電子版より)
大谷翔平がロスに12億円豪邸を購入、25億円別荘に続く大きな買い物も「意外と堅実」「家族思い」と好感度アップ 水原騒動後の“変化”も影響
NEWSポストセブン
被害者の渡邉華蓮さん
【関西外大女子大生刺殺】お嬢様学校に通った被害者「目が大きくてめんこい子」「成績は常にクラス1位か2位」突然の訃報に悲しみ広がる地元
NEWSポストセブン
杉咲花
【全文公開】杉咲花、『アンメット』で共演中の若葉竜也と熱愛 自宅から“時差出勤”、現場以外で会っていることは「公然の秘密」
女性セブン
史上最速Vを決めた大の里(時事通信フォト)
史上最速V・大の里に問われる真価 日体大OBに囲まれた二所ノ関部屋で実力を伸ばすも、大先輩・中村親方が独立後“重し”が消えた時にどうなるか
NEWSポストセブン