偏差値が高くて損することは何もない
──偏差値の高い大学に入る実利は「就活で人気企業の面接に呼んでもらえる確率が高まる」ぐらいであると書いていますが、「たかが学歴、されど学歴」とも書いています。あらためて、子供の教育でいい大学を目指すことは重要だと思いますか?
日本で「学歴」と言えば、学部の方の卒業大学を指すことが多いですが、いい大学に入るには偏差値を上げて、18歳の時に受ける入試で合格しないといけません。そして、偏差値が高くて損することは、何もないように思えます。実はあるのかもしれないですが、普通に考えるとデメリットはないと思うんです。日本の場合、偏差値の高い有名大学ほど学費が高い、ということもなく、国立大学の学費はどこもほぼ同じで、非常に安いですし、私立の医学部なんかだと、みんなが行きたい偏差値の高い大学のほうが逆に学費が安い。学歴というか、偏差値が高くて悪いことは一見何もないんですよ。
そして、多くの家庭がそう思っているからこそ、子どもを学歴獲得競争に駆り立てることになり、競争を大変なものにしてしまうわけですけね。こうしたいわゆる受験戦争に疲弊した家庭などは、偏差値教育なんかけしからん、といろいろ言い出したりするわけで、実際に、それで政治が動くこともありますよね。
──海外生活が長い藤沢さんから見て、日本の受験事情・学歴社会は海外と比較していかがでしょうか?
中国や韓国などは、日本以上に厳しいペーパーテストの競争があるようですね。科挙の本場だけあって、日本の中学受験より低年齢から受験勉強が始まるみたいです。また、英語教育も盛んで、たとえばフィリピンの語学学校に行くと、スパルタ式で1日12時間、ぶっ通しで英語を勉強するようなところに中国人や韓国人の子供がたくさんいます。
アメリカはアメリカで、いい大学に行くために、高校でトップクラスの成績を維持しないといけませんし、ボランティアなどさまざまな活動歴を作ったり、と非常に大変です。大学の学費もびっくりするほど高い。
ドイツなどは、日本やアメリカのような大学のランキングみたいなものはあまりなく、いくつかの中核大学がフラットに散らばっているのですが、子供はかなり早い時期にエリートの大学進学コースか職業訓練コースかに振り分けられてしまうようです。シンガポールも早期選抜についてはドイツと似ています。一方、フランスは日本とは比べものにならないほど学歴社会で、特定の大学の卒業生が最初からエリートコースを歩みます。
こうやって見ていくと、どの国の教育制度にも、それぞれの地獄があると思います。その中で、安い参考書を買って自分で勉強するだけでいい大学に入れて学費も安いんですから、日本はそんなに酷い方の地獄ではないんじゃないでしょうかね。
◆藤沢数希(ふじさわ・かずき)
PhD、物理学研究者、外資系投資銀行でクオンツ、トレーダーを経て、2022年11月現在は香港にて資産運用業を営む。メルマガ「週刊金融日記」発行。著書に『日本人がグローバル資本主義を生き抜くための経済学入門』『「反原発」の不都合な真実』『外資系金融の終わり』など。