「本当の姿」はどれなのか?
同じ人物をモデルにした絵画であっても、画家が変わればガラリと印象が変わることがある。それは画家の表現したいことがそれぞれ違うからで、その違いもまた絵画を楽しむ醍醐味といえる。
●ナポレオンの、勝った時と負けた時
グロによる『アルコレ橋のボナパルト』(1796年)とドラロッシュの『フォンテーヌブローのナポレオン』(1840年)。どちらもフランスの軍人ナポレオンを描いた絵である。『アルコレ橋のボナパルト』は戦場で旗を振る姿。27歳の司令官として部隊の先頭に立ち、味方を鼓舞している。戦いに勝利した直後の様子がかっこよく描かれている。
『フォンテーヌブローのナポレオン』は45歳で戦争に負けた時の姿を、敗戦から25年以上後に描いた作品。髪も服も乱れ、だらしないが、鋭い目つきは左の絵と変わらない。負けても諦めていない心の強さが伝わる。
●様々な“私”を演じ分ける大女優の輝き
クレランの『サラ・ベルナールの肖像』(1876年)と、アベマの『サラ・ベルナールの肖像』(1883年)は、ともにフランスの女優サラ・ベルナールを描いた絵。アベマ『サラ・ベルナールの肖像』は舞台で悲劇的な恋愛作品のヒロイン、スペイン王妃を演じる姿。力強い視線、引き締めた唇など、悲劇に立ち向かう王妃の凛とした姿が描かれている。
クレランの『サラ・ベルナールの肖像』はゴージャスな雰囲気の自宅でくつろぐ様子。ゆったりとソファにもたれて正面を見据える姿には、大成功した女優の貫禄が漂う。