「あなたの性根の悪さがよく分かる」
一方、当のワタルは一審・山口地裁の被告人質問で、当時の生活パターンをこう証言している。
「最後はわからなくなった。朝5時半、散歩して、家でカラオケ。事件の2~3 カ月前はなんもやってなかった。ポケーとして声を出すこともなかった。人の話を聞きたくない」
郷集落に戻ってきた当初、ワタルが自宅の窯で陶芸をやっていたことを覚えていた村人もいたが、それもいつしかやめていた。
ワタルは村人たちにその言動を不審がられていたが、家の中はそれにも増して不気味だった。地下のトレーニングルームを中心に、自作の“ポエム”がびっしりと壁に貼られていたのである。一審公判の証拠調べで、法廷の大型モニターにその様子が映し出されている。傍聴した記者やマニアは一様に、この写真のことを真っ先に挙げ「すごかった」と興奮して語るほどだ。
「何かしなければ全て認めて死ぬことになる 悪者にされ一人死んでたまるか」
「試合である 警察に訴えない 病院代の請求 遺恨残さず」
「あなたの性根の悪さがよく分かる がまん がまん がまん いつまでどこまで リオブラボー」
「もんぺ下げ 散歩の亀に 餌をやる」
「無神経 なのに 神経痛」
「玄関前に横たわる ぴくりとも動かない 仇討ち」
これらの不穏な“ポエム”は、村人への恨みからくるものなのではないか? そう一審公判で検察官が追及したが、ワタルは否定していた。こんな調子によってだ。
「ルームの紙は両親が亡くなった後、書いた。どういうつもりでって……つらい気持ちで書いた。見る時はなんともないです。子供がいじめられて日記書くでしょ、死ね死ね死ねとか。吐き出してすっきりする。そういうもんです」
そうは言っても、すっきりできなかったから事件は起こったのではないのか。
【後編に続く】
※文庫『つけびの村 山口連続放火殺人事件を追う』から一部抜粋