国内

【山口連続殺人放火事件】犯人はUターン後に“村おこしの拠点”づくりに励むも年長者たちに否定されていた

5人が犠牲になった(写真は現場検証。時事通信フォト)

5人が犠牲になった殺人事件の犯人・保見死刑囚の過去の姿とは(写真は事件直後の保見死刑囚宅。時事通信フォト)

 2013年7月、山口県周南市のわずか12人が暮らす集落で、一夜にして5人の村人が撲殺され、翌日、放火の焼け跡から遺体で発見された。犯人である保見光成死刑囚は上京後、地元に戻ってきたUターン組であり、事件の背後に、地域社会からはじかれたことの影響が取り沙汰された。あれから10年、ノンフィクションライターの高橋ユキ氏が、事件の真相に迫った【前後編の後編。前編から読む】。

 * * *
 事件直前は村の危険人物に成り果て、草むしりなどの集落の作業にも、自治会の仕事にも参加せず、回覧板も受け取らない生活をしていたワタル(保見光成の通称)。自治会は、ひとり暮らしの者には馴染みのないものかもしれないが、その地に根を張り、他の住民らと共存していくためには重要な組織だ。

 自治会では冠婚葬祭や清掃、その他諸々の行事をともに協力して行う。物理的に、作業は増えるが、地域に自分の存在を知ってもらえるため、見守りや防犯といった観点からは安心が得られる。自治会に入らなければ、回覧板も届かなくなり、おのずとコミュニティからは浮いた存在になりがちだ。

 ワタルもまた、最初から孤立していたわけではなかった。

 関東に出る前の幼少期は、ガキ大将として近所の子供を引き連れて遊んでいた。連れ回されるのがいやで、子供たちはたいてい、ワタルが遊びに来る前に出かけるようにしていたという。その一方で、いじめられていた同級生を守ってあげたこともあった。

 1996年5月に郷集落に戻って来たばかりの頃も、いわゆる“変人”ではなかったのだ。まず、戻った翌月に自治会の旅行に参加した。その翌月に開かれた自治会による歓迎会にも参加して、自己紹介をし、村人たちの輪の中にすすんで入ろうとしていた。2日連続の公民館行事にも参加した。旅行でのワタルの様子を覚えている村人はいない。ということは、逆に言えば取り立てて何も問題がなかったのだろう。

 歓迎会でワタルは、自分がこの地で何をしたいか、村人たちに提案をしていた。公判を傍聴した先のマニアが、この当時の情報を教えてくれた。

「本人に面接して本鑑定を行った精神科医が、『彼は村おこしに失敗した』と言っていました。その一言だけで、具体的には何に失敗したのか言っていなかったんです。本人は手に職があるからバリアフリーをやってみたり、年寄りが多いから色々と電気の付け替えとか、便利屋さんをやろうと思っていて、戻って来た年に、あの新しい家で『シルバーハウスHOMI』を開業したんです。そこでやっぱり介護とかデイサービスみたいなこともやろうと思ったんじゃないですかね」

 ワタルは独力で建てた新宅で、リフォーム業を主とする便利屋を開業しようとしていた。すでに過疎化が進んでいた村を盛り上げたいという意思を持っていたという。実際、新宅は村おこしの拠点にしようというワタルの思いが込められた造りになっている。

「気軽に集まってもらったり、お酒を飲んで歌ったり、話をしたりしたら楽しいよね」

 ある村人は、ワタルからそう言われたことを覚えていた。いま草に覆われている新宅の扉の奥には、カウンターバーがあり、カラオケ機器も当初から取り付けられていた。地下にはトレーニングルーム、さらには陶芸のための窯もあった。ワタルはこの家を村人たちの交流の場として作ったのだ。

 日々ドアを開けてふらっと訪れる村人たちと、カウンターでお酒を飲みながら交流を深め、地元を盛り上げるための色々な案を考えていきたい……そう夢見ていたという。

関連記事

トピックス

ビエンチャン中高一貫校を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月19日、撮影/横田紋子)
《生徒たちと笑顔で交流》愛子さま、エレガントなセパレート風のワンピでラオスの学校を訪問 レース生地と爽やかなライトブルーで親しみやすい印象に
NEWSポストセブン
鳥取の美少女として注目され、高校時代にグラビアデビューを果たした白濱美兎
【名づけ親は地元新聞社】「全鳥取県民の妹」と呼ばれるグラドル白濱美兎 あふれ出る地元愛と東京で気づいた「県民性の違い」
NEWSポストセブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
“関東球団は諦めた”去就が注目される前田健太投手が“心変わり”か…元女子アナ妻との「家族愛」と「活躍の機会」の狭間で
NEWSポストセブン
ラオスを公式訪問されている天皇皇后両陛下の長女・愛子さまラオス訪問(2025年11月18日、撮影/横田紋子)
《何もかもが美しく素晴らしい》愛子さま、ラオスでの晩餐会で魅せた着物姿に上がる絶賛の声 「菊」「橘」など縁起の良い柄で示された“親善”のお気持ち
NEWSポストセブン
『ルポ失踪 逃げた人間はどのような人生を送っているのか?』(星海社新書)を9月に上梓したルポライターの松本祐貴氏
『ルポ失踪』著者が明かす「失踪」に魅力を感じた理由 取材を通じて「人生をやり直そうとするエネルギーのすごさに驚かされた」と語る 辛い時は「逃げることも選択肢」と説く
NEWSポストセブン
大谷翔平(時事通信フォト)
オフ突入の大谷翔平、怒涛の分刻みCM撮影ラッシュ 持ち時間は1社4時間から2時間に短縮でもスポンサーを感激させる強いこだわり 年末年始は“極秘帰国計画”か 
女性セブン
10月に公然わいせつ罪で逮捕された草間リチャード敬太被告
《グループ脱退を発表》「Aぇ! group」草間リチャード敬太、逮捕直前に見せていた「マスク姿での奇行」 公然わいせつで略式起訴【マスク姿で周囲を徘徊】
NEWSポストセブン
11月16日にチャリティーイベントを開催した前田健太投手(Instagramより)
《巨人の魅力はなんですか?》争奪戦の前田健太にファンが直球質問、ザワつくイベント会場で明かしていた本音「給料面とか、食堂の食べ物がいいとか…」
NEWSポストセブン
65歳ストーカー女性からの被害状況を明かした中村敬斗(時事通信フォト)
《恐怖の粘着メッセージ》中村敬斗選手(25)へのつきまといで65歳の女が逮捕 容疑者がインスタ投稿していた「愛の言葉」 SNS時代の深刻なストーカー被害
NEWSポストセブン
俳優の水上恒司が年上女性と真剣交際していることがわかった
「はい!お付き合いしています」水上恒司(26)が“秒速回答、背景にあった恋愛哲学「ごまかすのは相手に失礼」
NEWSポストセブン
三田寛子と能條愛未は同じアイドル出身(右は時事通信)
《梨園に誕生する元アイドルの嫁姑》三田寛子と能條愛未の関係はうまくいくか? 乃木坂46時代の経験も強み、義母に素直に甘えられるかがカギに
NEWSポストセブン
大谷翔平選手、妻・真美子さんの“デコピンコーデ”が話題に(Xより)
《大谷選手の隣で“控えめ”スマイル》真美子さん、MVP受賞の場で披露の“デコピン色ワンピ”は入手困難品…ブランドが回答「ブティックにも一般のお客様から問い合わせを頂いています」
NEWSポストセブン