ホストクラブを取材し続ける宇都宮直子さん

ホストクラブを取材し続ける宇都宮直子さん

「愛される価値がない」という不安をお金で解決

宇都宮:今の世の中で普通に生きていても、わかりやすく認めてもらえることってすごく少ないじゃないですか。全国模試で1位をとるとか、営業成績がトップだとか、どれもかなりハードルが高い。だけどホストクラブであれば、お金さえ使えば、その「頑張り」を評価されて認めてもらえるし、ホストから「ありがとう、お前がいてよかった」と言ってもらえる。

橘:なるほど。「自分には愛される価値がないかもしれない」という不安をお金で解決しようとしている。たしかにそれは、ある種の合理的な消費行動ですね。

宇都宮:そうです。ホス狂いの多くは、AVや風俗、パパ活といったいわゆる「夜職」で稼いだお金をホストに捧げているのですが、そういった仕事は自分の体がお金に換算される。それでようやく自分は価値があると思えるんだそうです。だからこそ、彼女たちはホスト通いをやめられない。

橘:それは、若い女性には「エロティック・キャピタル(エロス資本)」という大きな人的資本があるという話につながりますよね。幼少期に里親家庭や孤児院で過ごしたノーマ・ジーンという孤独な少女が、思春期になって、街を歩くと周りの男たちがみんな自分に笑いかけてくることに気づいた。こうして彼女はモデルから映画女優を目指し、マリリン・モンローになるわけですが、十代半ばを過ぎれば、すべての女性がエロス資本を自覚するでしょうから、それを上手にマネタイズして夢をかなえようとする女の子が出てくるのは当然だと思います。

宇都宮:とくに夜の仕事は、その資本が可視化されやすい。実際、貢ぐお金がなくなったホス狂いが担当ホストから「稼いで来い」と風俗に売られてしまったという話を聞いて、ひどい話だと思ったのですが、当の本人は「ずっと周囲から『可愛くない』と言われて来たのに、こんなにお客さんがついて、これだけのお金を稼ぐことができた」と嬉しそうにあっけらかんと話していて、ゆがんだ形かもしれませんが自分の価値をわかりやすく提示されることを欲する気持ちというのが、確かにあるのだと感じました。

橘:元AV女優の峰なゆかさんのマンガ『AV女優ちゃん』(扶桑社)に同じような印象的な話がありますよね。田舎の中学生時代の峰さんは、クラスのみんなから無視されている地味な子どもだったんですが、修学旅行で東京に来た時、一人で中央線に乗ってはじめて痴漢に遭った。そのとき「こんな私でも価値があるんだ」と思って、それで人生が変わったそうです。もちろん、痴漢を肯定する意味ではないのですが。

宇都宮:でも、すごくよくわかります。女性は生まれた段階から、「選ばれなければ」「愛されなければ」子孫を残せない立場にいるという風潮が蔓延している。だから、そうやって数値がつけられたことそのものに安心するというのはあると思います。

ホス狂いが「物語」を求める理由

宇都宮:あと、取材をしていて不思議だったのは、彼女たちみんなが「物語」を欲しがることです。自分とホストがいかに特別な出会い方をしたか、とか本命のホストのほかに気になる存在もいて嫉妬されて……とか一人ひとりに「オーダーメイド式」のロマンスがある。

橘:一人ひとりにオジリナルの『風と共に去りぬ』があるということですね。男女の性愛には顕著な生物学的な違いがあって、男はほぼ無限に精子をつくることができるので、最適戦略はそれをばら撒くこと、すなわち妊娠可能な女性と片っ端からセックスすることです。しかし女は、妊娠から出産まで9カ月もかかり、産んだ後も授乳などで数年間赤ちゃんの世話をしなくてはならないので、自分と子どもの面倒をちゃんと見てくれる男かどうかを選別しないと生き残れなかった。進化心理学という学問では、このようにして女性は性愛に慎重になり、セックスよりもロマンスを重視するようになったと考えます。

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