輸入の1割を国内産にすれば需給ギャップは解消できる
飲用の牛乳はほぼすべてが国産のため、問題はチーズやバターなどの加工品だ。日本で消費される乳製品1200万トンのうち輸入は約450万トン。そのほとんどがチーズで、そのほかにバターや、プロテインの原料となるホエー(乳清)などが続く。
「日本は自国内で牛の成長ホルモン剤投与を禁止しながら、それが含まれる乳製品の輸入を黙認するという、まさに二枚舌の政策をとっています。チーズ、バター、ヨーグルトなどは、国内の牛乳で作っていれば生乳を使っていると書いてある。そうでないものは、輸入の脱脂粉乳で作られていると考えて差し支えありません」
チーズやバターなどの加工品も、国内生産の生乳から加工すれば安全なはずだが、そうなっていないのが現実だ。北海道大学大学院農学研究院准教授で、生乳の流通などに詳しい清水池義治さんはこう話す。
「日本が輸入する約450万トンの乳製品のうち、そのほとんどがチーズ。一方、国産チーズは生乳換算で約40万トンと需要の1割ほどしか作られていない。国内で余剰となっている生乳は40万トンほどですから、輸入チーズの1割を国産に置き換えれば生乳の需給ギャップを解消できるはずです」
酪農家に生産抑制や減産を強いながら輸入を続ける──この矛盾を続けていればいずれ“牛乳危機”が日本を襲うと鈴木さんが警告する。
「16年前に生産抑制が行われたのも、発端は過剰な生産と深刻な廃棄でした。しかし、その数年後からは需要が供給を上回り、バター不足へとつながっていった。
不足すれば増産しろと言い、余れば減らせと言うなど、あまりにも場当たり的な政策が続いていて、このままでは近い将来、また深刻な牛乳不足がやってくるでしょう。赤字続きの酪農家が離農してしまい、乳牛の殺処分が進めば一気に不足する事態も充分想定できます。生産量を戻すためには数年単位の時間がかかる。そうなってからでは遅いのです」(鈴木さん、以下同)
16年前と同じことの繰り返しにならないよう、政府は生産抑制以外の手立てを示すべきだが、あまりにも無策だと鈴木さんは続ける。
「諸外国がやっているように、コロナによる不況や物価高で食べたくても食べられない人が増えているわけですから、余剰分の乳製品を政府が買いとって、フードバンクやこども食堂などを通じて届ける仕組みを作るべきなんです。他国はすでにそのスキームを持っています」
牛乳は重要なたんぱく源。コオロギ食が物議を醸したように、今後は世界的なたんぱく質不足が訪れるとの懸念もある。いま私たちにできるのは、安全な国産乳製品を選び、しっかり消費することだ。
※女性セブン2023年4月27日号