【最初はお互い、特に意識したわけではなかった。山野井は三度目のヨセミテ行きを計画していたときでもあった。】
山野井:僕が声を掛けたんだよね。
平山:行きたい! という思いを周囲に隠さなかったから、元気な子が行きたがってますよという感じだったかも。
山野井:いまもキラキラだけど、当時はギラギラでね。
【1986年、2人はヨセミテ行きを決行する。山野井は三度目、平山は航空高専を1年休学して。彼にとっては初の海外でもあった。2人はヨセミテ公園内の、世界中からクライマーが集まる「キャンプ4」をベースに、お互いに登りたいルートを1日おきに登ることに。山野井が登るときは平山がビレイ(安全確保)し、翌日はその逆。】
山野井:2人でアストロマンと呼ばれるルートを登ったよね。キレイな花崗岩で、美しいクラック(ひび割れ)がず~っと続いていて。平山君はあれほどの長いルートをやった経験がないなか、やっぱり登っちゃって。こういうのも対応出来るんだ!と。
平山:日が暮れるころ頂上に着き、月明かりで降りて。ヘッデン(ヘッドランプ)がなくて、勘でこっちに行ってみましょうって。道に迷いながらで、降りてきたのは午前1時過ぎでしたよね。
山野井:自販機で炭酸を買って。空きっ腹で一気に飲んで、うわ胃が痛い! みたいな。
平山:早く登り終えたときは空き缶拾いをして。それが1ドルぐらいになった。1パイント(約473ml)89セントのアイスクリームを2人でよく食べたなぁ。アーモンドとマシュマロの入ったロッキーロード味。
山野井:ああ89セントだったね! それから当時の最高峰のひとつ、スフィンクスクラックは芸術品のようだった。すーっとクラックが走っていて神々しい。雨上がりの、夕日の時間でね。遠くで光るように見えて、キレイだな…と思ったのを鮮明に覚えてる。