タメ口を聞いて「なんだろう?」
『女を書けない文豪たち』は「私は日本文学をこよなく愛している」という一文で始まる。昔から日本の小説がお好きだったのかな、なにか影響を受けた作品があったのかなと思い、日本語との出会いを聞いてみると、イザベラさんはすまなそうな表情をされた。
「実は……たまたまなんです。ごめんなさい、この企画に合ってないかもしれないんですけど」
たまたま!? いや、むしろそのほうが聞きたいです、と前のめりになってしまった。どんなたまたまだったのだろうか。
「そもそもの入り口は、大学進学です。イタリアは大学自体のレベルにそんなに差がなくて、ほとんどの人が実家から大学に通うんです。でも、私はものすごくひとり暮らしがしたかった。同年代の人や学生と部屋をシェアするという生活に憧れていたんですよね。
進学に際してはもうひとつ、言語関連の学部がある大学で学びたいという希望があって、その2つを満たすのが、東洋言語学の学科があったヴェネツィア大学でした。そこで日本文学1の講義を取ったことが、日本語との付き合いの始まりです。ヴェネツィアっていうカッコいい街で、親元離れて暮らせる、言葉の勉強もできる。そのベクトルが合ったのがたまたま日本語だったんです。
日本の小説を、イタリア語で読んだことはありました。高校生の頃、吉本ばななや村上春樹がちょうどイタリア語に翻訳され始めていて、普通に手に取って読んだりはしていたんですが、ああ面白いなと思いながらも『これだ!』みたいな感じではなかった。アニメも、子供の頃からいっぱい見てはいたけど、当時はそれが日本のものだとは知らなかったので、自覚的に日本の何かが好きだったというわけではないんです。不純な動機ですみません……」
すまなくないどころか、もともと強い関心があったわけではないのに、今こんなに日本語を突き詰められているなんてすごい、とのっけから感動してしまう。ヴェネツィア大学での勉強はどんなものだったのだろう。