作者がどういう意図で句を詠んだかは句会の選句のときに聞いているが、小説はそこから離れ、自由に展開させていった。
「句会でメモを取ったりはしないし、打ち上げでお酒も入るので、うちに帰ると細かいことは忘れてしまいます。句会のメンバーには『写真を見て短篇小説を書く感じでやりたい』と説明しました。俳句って、瞬間をパっと切り取るものですから。みなさん編集者なので、必ずしもそこに描かれた情景そのままには書かないかもしれないということも、即座にわかってくれました」
タイトルになった句の作者が第一読者で、びっくりされたり喜ばれたり、目に見える反応が創作の刺激になったそうだ。
小説の国から出張に行く感じでヒヤヒヤしていた
各短篇は、小説雑誌ではなく伝統のある雑誌『俳句』に発表された。最初の3篇が、別冊特別付録として掲載されたことも話題になった。
「長いこと俳句を続けているかたが読む雑誌ですから、小説の国から出張に行くような感じで、どんな反響があるか首筋がヒヤヒヤしてましたけど、たいへん歓迎していただけて。『たまには小説読むのもいいね』なんて言ってもらえて、ほんとにうれしかったです」
タイトルに選んだ12句はすべて、メンバーの句で、宮部さん自身の句は使われていない。
「自分の句だと、句の裏側も知っているし、句にするだけで着想は使い切ってますから、小説が湧いてこないんです。へぼ句でも、後で小説に書けばいいやと思ってたら、へぼ句を詠むのが恥ずかしくなくなるかもしれず、恐ろしいので、自分の句は入れていません」
季語があるので、12篇読み終えれば春夏秋冬が3回めぐる趣向だ。亡くなった人についての物語が多く、おのずと死について考えさせられる作品にもなっている。
「『ホラー短篇集ですね』という感想をいただいています。句会自体は、笑っちゃうようなコメディー句も飛び出す、にぎやかで明るいものなんですけどね。この本を書いている間、世の中全体にコロナが影を落としていて、私も、症状は軽かったですが、第7波で感染したりしたので、自分では意識しなくても、いろいろ考えていたことが、もしかしたら小説に反映しているのかもしれません」