端正な写実句と見えたものから近未来のSF的世界が広がったり、ミステリーとして着地したと思ったあとにホラーな展開が待っていたり。ミステリーや時代小説、SF、ファンタジーなど、さまざまな分野の作品を手がけてきた宮部さんの手腕がぞんぶんに発揮される。
この句はこのスタイルでいこうという組み合わせは、どのように決まっていったのだろう。
「この作品集に限らずですけど、私が考えるのは、とにかく事件をどうするかですね。どういうことが起こる話にするかを考えます。たとえばこの本の、『プレゼントコートマフラームートンブーツ』という句をタイトルにした作品だと、ぬいぐるみを持った不思議なお姉さんが現れてマンションでバザーをする話にしよう。それだけ決めて書き始めます。書いているうちに、これはミステリーなのかな? これは家族小説? SF? これは一応、怪談になるんだろうなと、分類は後からする感じですね」
江戸怪談のシリーズを描くときも、宮部さんは、舞台をなるべく架空の土地にして、固有名詞を出さないようにしている。今回の本でも、場所や鉄道の路線、公共施設など、ありそうで実はどこにもないような設定が選ばれている。
気になるのが「散ることは実るためなり桃の花」に出てくる、絵本作家アマンダ・ペリの存在だ。小説を読むと代表作とされる『引き出しのなかの王国』を読んでみたくなるが、これってもしや……?
「編集者からも、『どこの国の人? 調べてもぜんぜん出てこないんだよ』って言われて、『私がつくったのよ』って。ほんとうに絵本がつくれたらかっこいいですね(笑い)」
【プロフィール】
宮部みゆき(みやべ・みゆき)/1960年東京都生まれ。1987年「我らが隣人の犯罪」でオール讀物推理小説新人賞を受賞してデビュー。1992年『龍は眠る』で日本推理作家協会賞長編部門、同年『本所深川ふしぎ草紙』で吉川英治新人賞。1993年『火車』で山本周五郎賞。1997年『蒲生邸事件』で日本SF大賞。1999年『理由』で直木賞。2001年『模倣犯』で毎日出版文化賞特別賞、司馬遼太郎賞、芸術選奨文部科学大臣賞文学部門を受賞。2007年『名もなき毒』で吉川英治文学賞を受賞。2008年、英訳版『BRAVE STORY』でThe Batchelder Awardを受賞。2022年菊池寛賞を受賞。
取材・構成/佐久間文子
※女性セブン2023年6月15日号