ローテーション関係なしの直接対決

 1954年に中日は天知俊一監督のもとで日本一に輝いている。エース・金田正一を擁する国鉄を相手に取りこぼさなかったことで優勝を果たせたのだと杉下さんは振り返っていた。

「天知監督から“金田に投げ勝てば国鉄に負けることはない。金田が投げる時は杉下が投げろ”と命を受け、この年は金田と5回も投げ合った。1点を争う投手戦となるが、打撃力に勝る中日が勝利した。この年は金田とは5勝0敗だった。その後も金田が投げるとボクが投げる。ローテーションなど関係なかった。同じように広島戦では長谷川(良平)対杉下で戦った。そうして優勝したのだから燃え尽きて当たり前のこと。でも楽しかった」

 対する金田さんも、杉下さんのことを高く評価していた。

「フォークボーラーと言われている杉下さんのフォークはよく落ちたが、スピードボールはもっと凄かった。速い球があったからこそ、フォークの威力があった。ワシも打撃には自信があったが、杉下さんに対しては決め球のフォークが出てくる前に四球を選ぶのが精一杯だった」

 互いにチームを背負うエースとして認め合っていた2人。2019年10月に金田さんが亡くなった時に、杉下さんはこんなふうに話していた。

「ボクも頑固でしたが、金田も頑固でね。(現役時代は)ボクも金田もブン屋さん(新聞記者)に聞かれてもちゃんと答えたことがない。“打たれたのはストレートですか”と聞かれても、“そう見えたならそうでしょう”なんて答えていた。頑固極まりなかったですよ。お互いに戦争が終わって何もないところからのスタートでしたから、“自分がすべて”という気持ちでやっていた。ボクも金田も(野球が)好きだったからできただけです」

 天国で再会した金田さんと杉下さんは、どのような言葉を交わしているのだろうか。心よりご冥福をお祈りいたします。

◆取材・文/鵜飼克郎(ジャーナリスト)

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