“バランス”は気にしなくていい
それでは、どのような食事が健康を考えるうえで望ましいのか。稲島医師は、「基本的に食物は加工せずに食べるとよい」と指摘する。
「『白米より玄米のほうが体にいい』『白い食パンより全粒粉のパンのほうが体にいい』とする考え方には一定の根拠となる調査結果があります。
米ハーバード大学公衆衛生大学院が行なった約12万人を対象にした調査によると、全粒穀物を毎日28グラム以上食べる人は全く食べない人と比べて死亡率が5%低下しました。特に、心筋梗塞や心臓発作といった心血管疾患で亡くなるリスクは9%の低下。そして、約16万人を18年間追跡した調査では、糖尿病の発症リスクが35%低下していました」
こうした調査結果の理由はまだ解明されていないというが、米や小麦を精製するといった加工の過程で栄養素が失われている可能性があるという。
「その一方、『100%野菜ジュースは体にいい』が正しいかは、作り方次第です。食物繊維を取り除いた市販のジュースは栄養素が失われており、『野菜味の水』と言っても過言ではありません。対して、茎や皮なども含まれた真の意味での100%野菜ジュースは健康にいいと言えます」
とはいえ、加工されていない食材だけでは味気ない。どのように日々の食事を摂るといいのか。
「私は『バランスの良い食事が健康にいい』というのは、誤解を招くと考えます。肉、野菜、穀物、牛乳など何でもバランス良く食べるよりも、野菜やナッツ、青魚といった健康にいいことが証明されている食材を料理に多く摂り入れたほうがいい。『健康的に偏った食事』を心がけるのです。
健康を保つためには、運動や睡眠と並んで食事は大きなウエイトを占めます。シワや肌荒れなどで見た目が老けている人は早死にしやすいという統計があるのですが、皮膚の状態には内臓の健康状態と密接な関係があるとされます。健康な内臓を保つためにも、日々の食事を工夫することが大切だと考えます」
食事は毎日のことだけに、考えるべきことは数多くある。
※週刊ポスト2023年6月30日・7月7日号