「ここは留置場か?」
身体検査を受けた後、税関職員から言われたのは、「今日はもう遅いので、施設に泊まってもらう。明日またインタビューがある」という一言だ。「そうしたら、入国できるのか?」と問うと、「それは分からない」と言われた。このまま入境拒否になる可能性が強くなった。
連れていかれた施設で、それは確信に変わった。そこは、空港の端にある出入境管理局の、先ほどとは別の広めの事務所だった。その奥は、雰囲気が違った。規制線があり、その先は男女に別れての区画となっていた。私の他には、黒人男性1人と、3人の中国語を話す女性たちがいた。
職員に、「ここは留置場か?」と聞くと、「ノー」という言葉が返ってきた。だが、書類には「被拘束者」という欄があり、そこにサインをさせられた。どうやら、それが私の今の立場のようだ。そして、荷物はすべてロッカーに入れ、最後にベルトを外して部屋に入れるように言われた。就寝前の処方薬を飲みたいと申し出たが、それは却下された。「もし何かあれば、ドクターを呼ぶから」と。
奥の男子エリアには三畳ほどの部屋が5つほどあり、その中には二段ベッドがあった。鍵はかけられていない。水飲みとトイレは自由に行けるが、ほとんど留置場と変わりないように思えた。ここで急に腹が減った。すでに深夜1時すぎだ。本来ならば、ホテル近くの屋台で何か食べている予定だった。空腹を伝えると、「分かった」と言われ、食事を用意してくれるという。「チキンで大丈夫か?」と言うので、「ビールも」と伝えると、「だめだ、お茶だけだ」と言われた。試しに言ってみたコーラもだめだった。
出されたものは、パックに入った、チキンステーキが乗ったご飯だった。香港料理の味付けだが、なんとも味気ない。添えられていたのは、リンゴ一個と、レモンティーだ。部屋の中のベッドはマットがビニール張りで、寝心地が悪く、シーツは洗濯はされているものの、染みがあった。毛布は一枚だけ。それなのにクーラーが強くて寒かった。朝まで少ししか眠れなかった。職員が1時間おきくらいに覗きに来るため、ドアは半分開けている状態だ。
このままもう香港には入れないのか、それとも、朝に会う入管職員の上司と話をすれば、もしかして入れるのか。そんなことを考えて悶々としていると、眠ってもすぐに起きてしまう。そのうちに「朝食だ」という声とともに、7時すぎに起こされた。夕食と同じようにパックに入っていた朝食の中身は、パン二切れとベーコンにソーセージ、目玉焼きだ。私が飛行機で香港に着いてから、すでに9時間が経過している。
その食事の途中だった。担当と思われる昨晩の女性職員が私を呼んで「おはよう」と日本語で声をかける。呼ばれた場所で席に座らされ、目の前で告げられた言葉はショックだった。「あなたは香港に入れません。2時間後の飛行機で日本に帰ってもらいます。飛行機の費用は香港政府が払います」──つまり、入境拒否の強制送還というわけだ。