また、「ひとりで何をしていいかわからない」という人には、自分の好きなところに好きなだけいればいい、とも。
「私にとって、料理は仕事であると同時に大好きなことなので、旅先のスーパーや市場は必ず覗きます。台湾の市場では、気がついたら6時間くらいいたこともありました(笑い)。夫や友人が一緒にいたら、なかなかそんなことできませんが、ひとりなら何をしても自由です。
好きなことがないという人も、たとえば好きな洋服を見つけるとか、映画を見てみるとか、ふだんの休日にすることを旅先でやってみるのも、かえって新鮮でいいんじゃないかなと思います」
近くて知らない街もたくさんあると、山脇さんは言う。
「私は東京在住ですが、下町エリアをよく知らないので、谷中に泊まって朝ランをしながら、いつも長蛇の列のパン屋さんに寄り、ロケ地でもおなじみの『夕やけだんだん』を上るなど、街の日常を楽しみました。隅田川入門と名付けて、両国に泊まったこともあります。
近場の街でもパリでも、知らない街を歩くことにおいては、どちらも立派な“旅”だと思っています」
ひとり旅はまた、自分の考えを柔軟にしてくれる力もあるようだ。
「バスに乗っていてふと、『この景色ってひとり旅で見たあの風景に似ているな。あのときはこんなことで悩んでいたっけ』と、風景とともに感情が蘇ることがあります。それをきっかけに『台湾でスープを作っていたお母さん、いい手だったなあ』などと思い出すことで、自分の頑なな部分が緩んで少し優しくなれたり、許せなかったことが『まあいいか』と思えたりします。
ひとりだと、ぼーっとしているようでいろいろなことを考えているんでしょうね。それが、結果的に心の肥やしになっているのかもしれません」
今後もひとり行動は慣れないだろうという山脇さんだが、人生経験を積み、失敗も笑えるようになったいまこそが、ひとり旅の適齢期ではないかと実感している。
【プロフィール】
料理家・山脇りこさん/東京・代官山で料理教室「リコズキッチン」を主宰する傍ら、テレビや雑誌で季節感のある家庭料理を紹介している。
取材・文/佐藤有栄
※女性セブン2023年7月27日号