「この日は早寝と緊張でものすごく早く目が覚め、6時くらいに出発して清水寺まで走りました。着いたら開門したばかりで、いつも“激混み”の清水の舞台が、私を含めて3〜4人しかいない! 紅葉の時期だったのに信じられないくらい貸し切り状態でした。
静寂の中、僧侶のかたが境内を掃き清める姿や、もみじについた朝露が朝日に照らされる情景を見ながら、『朝はすごい!』と感動しました。
これは、ひとりだからこそできた体験です。もし友人との旅だったら、おそらく夜遅くまで話が弾み、朝起きられなかったでしょう。ひとりもいいなと思えた旅でした」
とはいえ、計画立案から実行までひとりで行うのは、ハードルが高そうだ。
「最初は、夫や友人との旅の2〜3日前にひとり旅を組み込むようにしました。後から合流すると思うと気も楽だし、自分の好きなように時間を使えるのでおすすめです。
その後、行ってみたかったパン屋やカフェなど、目的を持ったひとり旅もしていますが、“前乗りひとり旅”は、いまも私の基本スタイルです」
さまざまな旅を経て、山脇さん流「旅の5つのルール」が出来上がった。それが、
【1】気ままに歩く
【2】公共交通機関で動く
【3】疲れたら早めに休む
【4】用心深く、冒険はしない
【5】凹まない、怒らない
というものだ。
「昔から“ビビり”なので、予測不能なハプニング旅は絶対に無理。特に海外は治安がよくて街歩きが楽しめ、疲れたら公共交通機関、あるいはタクシーで帰ってこられる地を選びます。
いまも、海外では靴底に20ドルを忍ばせる小心者ですが(笑い)、大人の旅に冒険はいらない。不安な気持ちで旅は楽しめないじゃないですか。
また、せっかく来たのだからと旅程を詰め込みたくなりますが、中高年に無理は禁物。旅先で具合が悪くなると心細いので、早めに休みを取ることをおすすめします。と言いながら、パッとお店に入れない私は、休憩を取るのが苦手なんですが(笑い)」
旅先では嫌な思いをすることもあるが、ポジティブに受け止めることが、ご機嫌玉を増やすコツだ。
「お店や宿で待たされると、つい『早くして!』と思ってしまうことがあります。そんなときは『なんで私、イラッとしているの? ひとりだし、1本電車を遅らせたって誰も困らないよね?』と思うようにしています。『怒りは自分に盛る毒』というネイティブ・アメリカンの言葉がありますが、本当にそう。旅に出ている間は凹んだり怒ったりしない。旅は、メンタルの訓練をしている感じもありますね」
「旅は人とのふれ合いが楽しい」という人もいるが、山脇さんは著書で、《ひとりにどっぷり浸かりたいので、むしろ誰とも口をきかなくても平気》と綴っている。人との交流が苦痛で旅をためらう人には、心が軽くなる言葉だ。
「私は相当な人見知りで、旅先で『今日しゃべったのは、チケットのもぎりのおじさんひとりだった』という日もよくありますが、この年になると、別につらくはないですね。
たとえば、鎌倉のカフェにいる人たちを観察しながら『なんておしゃれな人! やっぱり鎌倉マダムは違うなー』なんて、ひとり勝手に妄想する時間も楽しいものです。
ひとり旅は、自分と自分がふたりで旅行しているものだと思えば、他人のことも気になりません」