スポーツ

「野球も人格もこの人には勝てない」最後の近鉄戦士・坂口智隆が中学時代から引退まで師と仰いだ「ミスターレオ」

「グッチ」の愛称でファンから親しまれた坂口(写真 平尾類)

「グッチ」の愛称でファンから親しまれた坂口(写真 平尾類)

 近鉄、オリックス、ヤクルトでプレーした坂口智隆の初の自著『逃げてもええねん 弱くて強い男の哲学』(ベースボール・マガジン社刊)が刊行された。近鉄でプロ2年目に球団消滅を経験し、主力選手として活躍したオリックスでは自らの意思で自由契約による退団を決断した。幾度の試練を乗り越え、ヤクルトでも活躍した姿を見ると強靭な精神力を持っているイメージが強いが、「僕は気持ちが強い選手じゃないし、身体能力も周りに凄い選手がゴロゴロいた」と振り返る。現役時代はダルビッシュ有(パドレス)、田中将大(楽天)と何度も対戦し、ヤクルトでは山田哲人、村上宗隆と球界を代表する選手たちとチームメートだった。だが、「最も衝撃を受けた選手」で即答した選手は、中学時代に出会った憧れの人だった。【前後編の前編】

 * * *
「今でも強烈に覚えていますね。体が大きくて、打球の次元が1人だけ違った。遠くへ飛ばすだけじゃなく、打球が速いから守っていて怖かった。当たったらケガして危ないなって。足もメチャメチャ速かった。当時は大げさでなく、中学生の中にプロ野球選手がまじっている感覚。野球がうまいと天狗になっていた自分の鼻が完全にへし折られましたね」

 坂口は小学2年で地元の軟式野球チームに入り、すぐに上級生にまじって試合に出ていた。学年が上がると、投手で誰よりも速い球を投げ、打者で誰よりも遠くへ飛ばした。だが、中学で硬式野球のヤングリーグ「神戸ドラゴンズ」にセレクションで入団すると、「自分は井の中の蛙だった」と痛感させられる。全国屈指の強豪チームで、攻守でハイレベルな選手たちがたくさんいた。その中でも衝撃を受けたのが、1学年上の栗山巧(西武)だった。

「他の上手い選手を見た時は“追いつける、追いついてやる”と思ったけど、栗山さんはズバ抜けていた。一緒にプレーしていても、実力の差を縮められるどころか、さらに広がっている感覚やった。当時練習していた球場は外野のフェンスを越えて防球ネットがあったんですけど、栗山さんの打球は防球ネットを越えてさらに打球が伸びる。大学の馬術部が活動していたので、『馬に当たると危ない』って栗山さんだけは試合も金属バットでなく、竹バットで打っていました。それでもバンバン飛ばしていく。この実力差は一生埋まらないと感じました」

 3番・坂口、4番・栗山の強打者コンビは中学野球界でも知れ渡っていた。坂口が栗山に魅入られたのは、野球の実力だけではなかった。

「子供って野球が上手い、下手で上下関係ができる時があるじゃないですか。野球がうまい人間だけでかたまって行動して態度が大きくなったり。年を重ねて自分の未熟さに気づくと思うんですけど、栗山さんは当時から視野が広くて周りを気遣っていた。意識しているわけじゃなく自然な振る舞いだったかもしれないけど、試合に出る選手、出ない選手とか関係なく誰に対しても同じ態度で接して、偉ぶることがない。下級生にも優しかった。みんなに尊敬されているから自然と輪ができるんですよ。僕のおかんも栗山さんが大好きで、今も応援しています。かっこいいしね(笑)」

 中学卒業後に栗山は甲子園常連の育英高、1学年下の坂口は当時甲子園に1度も出場したことがなかった神戸国際大付属高に進学する。「栗山さんとプレーしたことで野球の楽しさを改めて感じられた。もっとうまくなりたいって。でも、あのレベルの人達が集まる環境だったら試合に出られず心が折れると思った」と自身の進路に影響を及ぼしていた。神戸国際大付属高で1年秋からエースとなり、2年春のセンバツに出場。野球のエリート校ではないため、同じクラスに野球部は2、3人だけだった。「野球部以外の友達が多かったですね。今でも会いますよ。みんな色々な仕事で頑張っている。プロ野球選手が偉いわけじゃないし、関係性は昔から変わらない」と話す。誰にでも分け隔てなく気さくに接するから人望が厚い。多感な思春期に栗山と出会ったことは、人格形成の面でも大きな財産になっていた。

関連記事

トピックス

あごひげを生やしワイルドな姿の大野智
《近況スクープ》大野智、「両肩にタトゥー」の衝撃姿 嵐再始動への気運高まるなか、示した“アーティストの魂” 
女性セブン
天海のそばにはいつも家族の存在があった
《お兄様の妹に生まれてよかった》天海祐希、2才年上の最愛の兄との別れ 下町らしいチャキチャキした話し方やしぐさは「兄の影響なの」
女性セブン
満を持してアメリカへ(写真/共同通信社)
アメリカ進出のゆりやんレトリィバァ「渡辺直美超えの存在」へ 流暢な英語でボケ倒し、すでに「アメリカナイズされた笑い」への対応万全
週刊ポスト
傷害致死容疑などで逮捕された八木原亜麻容疑者(20)、川村葉音容疑者(20)、(右はインスタグラムより)
【北海道男子大学生死亡】逮捕された交際相手の八木原亜麻容疑者(20)が高校時代に起こしていたトラブル「友達の机を何かで『死ね』って削って…」 被害男性は中学時代の部活先輩
NEWSポストセブン
ライブペインティングでは模様を切り抜いた型紙にスプレーを拭きかけられた佳子さま(2024年10月26日、佐賀県基山町。撮影/JMPA)
佳子さま、今年2回目の佐賀訪問でも弾けた“笑顔の交流” スプレーでのライブペインティングでは「わぁきれい!うまくできました!」 
女性セブン
木曽路が“出禁”処分に(本人のXより)
《胸丸出しショット投稿で出禁処分》「許されることのない不適切な行為」しゃぶしゃぶチェーン店『木曽路』が投稿女性に「来店禁止通告」していた
NEWSポストセブン
東京・渋谷区にある超名門・慶應義塾幼稚舎
《独占スクープ》慶應幼稚舎に激震!現役児童の父が告白「現役教員らが絡んだ金とコネの入学ルート」、“お受験のフィクサー”に2000万円 
女性セブン
傷害致死容疑などで逮捕された八木原亜麻容疑者(20)、川村葉音容疑者(20)(インスタグラムより)
【北海道男子大学生死亡】 「不思議ちゃん」と「高校デビュー」傷害致死事件を首謀した2人の女子大生容疑者はアルバイト先が同じ 仲良く踊る動画もSNS投稿
NEWSポストセブン
佳子さまの耳元で光る藍色のイヤリング
佳子さまが着用した2640円のイヤリングが驚愕の売れ行き「通常の50倍は売れています」 地方公務で地元の名産品を身につける心遣い
週刊ポスト
いわゆる“ガチ恋”だったという千明博行容疑者(写真/時事通信フォト)
《18才ガールズバー店員刺殺》被害者父の悲しみ「娘の写真を一枚も持ってない。いま思い出せるのは最期の顔だけ…」 49才容疑者の同級生は「昔からちょっと危うい感じ」
女性セブン
100キロウォークに向けて入念に準備をする尾畠さん
85歳になった“スーパーボランティア”尾畠春夫さん、「引退宣言」の真相を語る「100歳までは続けたい」と前言撤回の生涯現役宣言
週刊ポスト
騒動があった西岩部屋(Xより)
《西岩親方、19歳力士の両親を独占直撃》「母と祖母が部屋を匿名誹謗中傷」騒動 親方は「幹希の里は覚悟を決めて書いた」と説明
NEWSポストセブン