最低賃金を1500円に引き上げるよう求める人たち。2022年8月(イメージ、時事通信フォト)

最低賃金を1500円に引き上げるよう求める人たち。2022年8月(イメージ、時事通信フォト)

 898円と1500円、とはいえコストコで全員が働くわけがないというのは当たり前だが、熊本でも1500円出す会社がやってきた、それ以上を出す会社が台湾にある、と熊本県民のみならず日本中の労働者が気づかされている。そして企業の言うところの「人手不足」はますます進む。こうした企業は「人材不足」でなく「人手不足」であるところがミソである。人材と考える気がない、人手と考えている。言葉遊びではなく、そういうことだ。

延々と求人ガチャを引いているだけの企業

 人材は他の会社より1円でも高くして採用するものだ。人手でいいと思っているからうんと安くする。そのくせ希望は若者で、シフトに文句を言わない、その時間内なら業務外のことでも進んでやってくれる人、である。大変よろしくない言い方は承知で書くが「若い奴隷募集」である。この急激な少子化、人口減に向かう日本で、そのような待遇でそんな「若手」が来るわけがない。

 そうした出すものを出さない企業、まるで延々と求人ガチャを引いているだけのように思う。とくに筆者がこれまでコンビニを始めとする小売や飲食といった、人手不足どころか「働こうと思う人がいない」「労働者としては近寄らない」域にまで達した業種は過去のツケがいま回ってきているように見える。小売や飲食の世界では、1990年代中盤から2000年代には、アルバイトの募集をかければ、若手で正社員クラスの人材をより好みできた。今ではそんなことを言える状況にないのに、どれだけのマルチタスクもこなせる店長クラスの働きぶりの若者を時給800円で雇えた時代のままに求人広告を打ち続けている。

 以前コンビニ経営者が「経営者にとって本当にお得な時代があった」と語ってくれたが、これは小売や飲食だけでなく、 市役所の非正規職員や学校の臨時的任用教員および時間講師なども同様である。かつてのようには人が集まらず、以前だったら採用にふんぞり返っていた役所は地元高校に頭を下げて新卒職員を募り、学校に至っては教員免許の有無を問わず教員採用される特別枠を新設、最短2年で教員免許を取得できる教職課程も新設するとしている。そのくせ現役の非正規職員や教員を「若くないから」と非正規のままに置くどころか契約期限満了でポイ捨てしている。口が荒いかもしれないが、これは現実である。

 800円だ、900円だ、いや1000円にしてみせたぞ、どうだと岸田首相はじめご満悦な発表や御用報道はあるが、この国の労働者に対する賃金モラルは狂っていると思う。

 お盆、私の知人で50代の非正規は冗談めかしながらこう言っていた。「田舎の同族企業は『私たち一族を食べさせてくれる奴隷募集』である」と。これほどに極端でなくとも、労働者の価値を不当に欺き、日本全体で30年間も賃金を安いままに置いたこの国は、いまや自ら生み出した人手不足に苦しんでいる。

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