女性の攻撃は目に見えない
他人を“抹殺”するまでの「大衆の狂気」はなぜ生じるのか。人間は本能的に、高いステイタス(社会・経済的地位)を求めて競争する生物だと、橘さんは語る。自ら努力して競争に勝ち、より高い地位を得ることができれば、脳は達成感とともに快感を得る──これは健全だ。では、そうした競争に敗れたときはどうなるか。
「問題は、他人を引きずり下ろすことでも、脳は同様に大きな快感を得られることです。そのため、ステイタスが低い人ほど“反撃できない相手”を選んで攻撃することで、相対的に自分のステイタスを高めようとする。役所の窓口やコンビニのレジで怒鳴っている中高年男性がその典型です。多くの人が芸能人の不倫を叩くのも、社会的な名声を引きずり下ろすことで快感が得られるからでしょう」
夢中になって他人の不道徳な言動を叩くのは、こうした“努力せずにステイタスを上げたい人”だけではない。ネットではしばしば、気に入らない投稿などに執拗に絡んでくる匿名の「極端な人」に遭遇する。
「彼らはむしろ、会社の管理職など、一般的には社会的地位は高いことが多い。実社会では口うるさく偏屈で人の話を聞かない“めんどうな上司タイプ”。調査では、SNSで暴走するのは、職場では主任・係長以上で、ある程度の収入と地位があるものの、主観的には挫折感を持っている人が多いことがわかっています。この人たちの自我は脆弱で、正当な反論でも自分への攻撃と見なして常軌を逸した猛反撃を開始するため、言葉での説得は不可能です。絡まれそうになったら、一切無視してブロックするしかありません」
データ上、こうしたタイプには男性が多いという。だが、「女性は人を攻撃しない」というわけでは決してない。
「かつては、女性は男性と違って平等な関係をつくると考えられていました。しかし、近年の研究で、女性グループにも序列があり、その暗黙のルールを破った者は“間接的に”攻撃され、集団から排除されることがわかってきました。女性同士では直接的な暴力はまれで、ささいな言葉や目くばせなど、水面下で起きることが多いようです」
結局のところ「女の敵は女」なのだ。恐ろしいのは、キャンセルカルチャーが、社会的な死をもたらすことだ。SNSの投稿を削除したとしても、1枚でもスクリーンショットを撮られていれば、永久に残る。
「不適切な言動がスマホで録音・録画されてネットで晒されることは『デジタル・タトゥー』と呼ばれ、今後は大きな社会問題になっていくでしょう。30代、40代で成功した途端、小学校や中学校の頃の言動を理由にキャンセルされ、すべてを失うことになりかねません」
※女性セブン2023年9月7日号