福島第一原発の処理水を放出するにあたり、中国政府は日本の水産物輸入を全面的に停止したが、当の中国こそ「汚染」された数々の水産物を日本に輸出していた。
厚労省が公開する「輸入食品等の食品衛生法違反事例」によれば、2022年度(2022年4月~2023年3月)は191件の中国産輸入水産物が食品衛生法に違反しており、今年度も4月から8月末までに64件。そのなかにはイカやエビ、貝類などが報告された。
なぜこれほど汚染水産物が日本に入るのか。消費者問題研究所代表で、食品問題評論家の垣田達哉氏が語る。
「国土が広大な中国は輸出品目の種類が圧倒的に多く、扱い業者も多い。国が業者の実態を十分に把握できず、衛生指導を徹底することが難しいのです。中国産餃子が原因で食中毒が発生した2008年当時に比べると改善されたとはいえ、工場などの衛生状況も当局の指導が行き届いていません」
食の安全に詳しいジャーナリストの小倉正行氏も中国の生産体制の杜撰さを指摘する。
「中国の水産品は利益を増やすため人工の小さな沼で魚やエビなどを密かに養殖するケースが多い。その際に大量の抗生物質や薬品を投入するため水産物が汚染されます」
今年4月、中国から輸入した養殖スッポンから抗生物質「エンロフロキサシン」が検出された水産加工会社・A社の代表が苦しい内情を語る。
「取引先の中国業者のスッポンは過去にも検疫を通らないことがあった。その際、『養殖で抗生物質を使うことは避けてくれ』と伝えたが、抗生物質は一度使うと半年は残留するのでまた違反となった。それでも他にスッポンを養殖する中国業者がほぼ皆無のため取引をやめられません」
受け入れる日本側の検査体制にも課題がある。
「輸入食品監視指導計画監視結果(中間報告)」によると令和4年度の食品の輸入件数(中間報告)は約125万件だが、全国の港湾や空港の検疫所における検査件数は10万6351件にとどまる。
「過去に違反事例のあった一部の例外を除き、大半の輸入食品は無作為に一部を選んで検査する『モニタリング検査』が行なわれるのみ。近年の検査率は8%程度にとどまり、90%以上の輸入食品が無検査で輸入されます。しかもモニタリング検査は結果が判明する前に輸入が認められる。輸入業者の多くは結果が出るまで流通を控えますが、中には結果を待たず取引先におろす業者がいるので、汚染がわかった時はすでに消費者の胃袋の中、となりかねない」(小倉氏)