「1年間大阪に住んでいたので、イントネーションが大阪弁っぽくなってしまうのも悩みのひとつです。元々大阪弁に憧れがあったから、好きなんだけど、発音や読み方の指導を受けている方には『大阪弁が好きなら極めてもいいんだけどなあ』って言われる。標準語は平たいから、意識して、頑張って平たい感じを出しています」
平たい感じ! 標準語の、細かい高低の少ない穏やかさは確かに『平たい感じ』だ。
「ボイスサンプルを作るために、厳しくチェックしてもらっているんですけど、テンポも難しい。日本語のリズムをトントントンだとすると、ウクライナ語やロシア語はトゥルルルルって感じで、一つの文章の中にポーズ(間)がほとんどない。文字一つ一つをちゃんと言わないで、つなげて言う。日本語は文字をはっきり発音するから、そのあたりのテンポの切り替えがうまくつけられないことがある。で、ゆっくり喋るテキストだと大阪弁の影響が出ちゃう」
いろいろ問題があるとディマさんは言うけれど、それは直すべきところが分かっているということだ。言語化できるのがその証拠。日々の努力も、苦労と楽しさが混ざり合っているのではないだろうか。
「うーん、そうですね。考えると、梶さんや宮野さんの演技を聞いて『すごい!』って感動したけど、本気で声優になりたいと思ったのはどうしてだろう……。
私、人と話すのはそんなに上手ではなくて、自分を表現するなら何だろう? と思った時、声優が浮かんだ。で、ウクライナ語とロシア語で声優ごっこをやってみた。でもなんか合わないというか、似合わない。日本の声優を真似してみたら、いい感じだった。
これは個人の意見なんですけど、日本語は『声の芝居』の自由さが、ウクライナ語やロシア語より圧倒的にある。声の演技の自由度で言ったら、日本語を10割とすると、ウクライナ語が3、4割で、ロシア語は2割くらい。
だから、自分を表現するなら日本語しかないと思った。それが声優を目指した理由と言えるのかな」
ディマさんの話を聞いて思い出したのは、以前インタビューさせていただいたフィンランドのラウラ・コピロウさんの言葉だ。『フィンランド人は、自分が感じていることを表現するのがあまり得意じゃない。『好きです』『おいしい』『かわいい』のような言葉をほとんど口にしない。日本語では遠慮なくそういう気持ちを言える』とおっしゃっていた。ディマさんの言う『声の演技の自由度』も、その言語を母語とする人たちの気質や習慣に根差すものがあるのかもしれない。