「演技で感情を出す時、日本語でやると自然だと感じる。ウクライナ語やロシア語でやるとなんか不自然になる気がする。人はそんなふうには喋らないよって思う。言い方が自然じゃないというか……そのへん、自分の中でも答えが出ないし、疑問に思ってはいるんですけど、日本語で演技をしていて楽しいのは、会話が自然に聞こえるから」
プロとして日本語で初演技をした『ストールンプリンセス:キーウの王女とルスラン』の現場でのことも聞いてみよう。初めてのアテレコ、ドキドキしましたか?
「言葉にのまれました。どうすればいい? って思った場面があった」
言葉に『のまれる』。ディマさんの表現は本当に豊かだ。何があったのだろう。
「驚いているんだけど驚いてない感じを出してくださいって言われて、オーケーが出るまで時間がかかったセリフがありました。
これは想像なんですけど、監督さんは『この外国人はどこまでやれるだろう』って思ったんだと思う。だからそういうリクエストを出してみたのかなって。自分としては、デビュー作だけどこの仕事で生き残れるか生き残れないかの死活問題だと感じた。結構悩みながら、一生懸命やりました。
多分その問題をクリアできて、そこからは演出のリクエストもどんどん来るようになった。認めてもらえたかなと思って嬉しかったし、マイクの前で自分は本当に生き生きしているなと思った。声優の仕事が本当に好きだと思いました」
自分が生き生きしていると感じた、と言うディマさんの日本語は本当に生き生きしている。貪欲に言葉をつかみ取り、獲得した言い回しをどんどん使う。ひとつの表現に固着せず、新しい言い方を試してみる。きっとディマさんはそれを面白いと感じるタイプなのだろう。
(第4回に続く)
【プロフィール】
工藤ディマ(くどう・ディマ)/2000年生まれ、ウクライナ・キーウ出身。2022年に家族と離れ単身で来日。公開中の映画『ストールンプリンセス:キーウの王女とルスラン』で主人公ルスランのライバルとなる三兄弟の末っ子、ロデー役で声優デビューを果たす。
◆取材・文 北村浩子(きたむら・ひろこ)/日本語教師、ライター。FMヨコハマにて20年以上ニュースを担当し、本紹介番組「books A to Z」では2千冊近くの作品を取り上げた。雑誌に書評や著者インタビューを多数寄稿。