庶民の暮らしが文献には多く載っていない
衣装は時代劇を手がけるスタッフではなくファッション業界からスタイリストのBabymixを起用した。
「僕らが目指したのは、実際はこうでしたというのを追求することなんで、既存の時代劇様式の衣装ではなかったんです。しかも再現するだけじゃなくて、そこにクリエイティブの要素がないと嫌だった。文献や古い写真を見ると、着物も普段着だから気崩したりする。そういった点をリアルに再現すると同時に、各話のトーンやキャラクターに合わせた個性も表現していきたいなと考えました」
時代考証には徹底的にこだわり、もちろん文献にもあたる。やはり古い時代になればなるほど史料が少なく苦心したが、実際に調べてみてもうひとつ史料集めに苦労したものがあるという。
「庶民の暮らしが題材なので文献もあまりない。紙にまとめると数枚程度にしかならなかったりする。特に女性のことにかんしてはほとんど見つからないんですよ。古文書の中の数行しかないところから、どうやったら膨らませてストーリーにできるか、いつもそういうせめぎあいをしていました」
『タイムスクープハンター』を見ると特に感じるのは弓矢の怖さだ。合戦の中で、矢が襲ってくる光景はあまりに生々しく恐ろしい。
「時代劇で刀で斬り合っても基本的にはファンタジーじゃないですか。黒澤明の映画で血がバーっと出たり、手が切り落とされたりっていうのがあってリアルだなっていうのはありましたけど。で、刀で斬るっていうのをフェイクドキュメンタリーでやるとなると、かなりエグい描写になってしまうんですよね。でも弓矢だとリアルに描けるかなと思って、そこは新しい表現にチャレンジしました。
あと石ですね。合戦は弓以上に石が使われていたという史料も見つかって。それを読んだときにたしかにそうだなと思って、しかも他のドラマでは見たことないじゃないですか。だから絶対に石の描写はやりたいな、と。視聴者の皆様にも痛みがリアルに伝わるんじゃないかって。ドキュメンタリーの手法を逆手に取って死体にモザイクがかけたりもしましたね。そうすると見てる人が想像力を働かせてくれるので」
「ドラマ、バラエティ、ドキュメンタリーであってもフェイクの部分がある」
ファンタジーではないリアルなものを撮りたい中尾にとって、ドキュメンタリーはジャンルではなく手法。フェイクドキュメンタリーという形式になったのは必然だった。
「ドラマにしてもバラエティにしても、ドキュメンタリーであってもフェイクの部分があるわけじゃないですか。『木曜スペシャル』の矢追純一の番組とか『水曜スペシャル』の川口浩探検隊だって、当時はマジで見てたけど、今見るとフェイクドキュメンタリーじゃないですか。僕もテレビっ子だからそれが刷り込まれている中で、僕はあえてそこにフェイクですよって提示してアプローチしたということです。
映画やドラマの魅力ってプロットとかストーリーよりも、どういう演出をするかを楽しむものだと思うんです。実際、『タイムスクープハンター』のストーリーは、氷を運ぶだけとか、すごくシンプルなものが多い。でも、同じ題材を撮ったとしても、その演出次第で新鮮にワクワクするものができる。
映画ならワンカットで撮る人もいるし、ロングショットばかりを使う人もいれば、細かいカットでつなぐ人もいる。そういう色々なスタイルがあるところが面白い。僕は今までにないアプローチをしたいと思ってドキュメンタリーの手法を使って、フェイクドキュメンタリーとして時代劇を描いたんです」
『タイムスクープハンター』は昨年から英訳版がNHKワールドで放送され、新たなファンを獲得している。それを機に新作も期待してしまうところだ。
「もちろん僕は作りたいと思ってますよ。ただこればっかりはNHKさんにゴーサインを出してもらわないとできないんで(笑)。皆さんにもっとプッシュしてもらいたいですね!」
(了。前編から読む)
アニメ「ブルバスター」10月4日から放送開始!
若き技術者・沖野鉄郎は、自ら開発した新型ロボット・ブルバスターを携え、害獣駆除会社の波止工業に出向。田島が社長を務める波止が対峙しているのは“巨獣” と名付けられた謎の生物だった!さらに万年金欠の零細企業とあって、波止には常に経済的な問題がつきまとう……。ロボットの燃料費、パイロットの人件費、もちろん弾一発の無駄さえ許されない。巨獣を退治するという「理想」と、コストという「現実」の狭間で、波止に未来は訪れるのか!?
TOKYO MX・AT-X・カンテレ・TVQ九州放送・BS日テレほかにて放送中
(C)P.I.C.S.・KADOKAWA 刊/波止工業動画制作部
【プロフィール】中尾浩之(なかお・ひろゆき)/映像監督・脚本家。株式会社ピクス(P.I.C.S.)所属。2009年から2015年まで放送された歴史エンターテインメント番組『タイムスクープハンター』(NHK)では脚本と演出を手掛ける。
◆取材・文 てれびのスキマ/1978年生まれ。ライター。戸部田誠の名義での著書に『1989年のテレビっ子』(双葉社)、『タモリ学』(イーストプレス)、『芸能界誕生』(新潮新書)、『史上最大の木曜日 クイズっ子たちの青春記1980-1989』(双葉社)など。
撮影/槇野翔太