「移動時間にお金が出ない、待機時間もお金が出ない、身体介護で1500円とか、1600円でも移動距離があれば数はこなせませんし、それこそ連続で近場に訪問先があるわけではありません。はっきり言って、いまの時代に仕事と呼べないレベルなんです」
もちろん仕事自体は専門的な技能が求められる、それでもまったく見合わない額しか得られない。ホームヘルパーもまた、専門性の求められる仕事なのに。
「入浴介助でも排泄介助でも施設なら基本、同じ場所、同じ設備を使いますが、訪問介護の場合はご家庭それぞれに違いがあります。バリアフリーに改装して設備が整っている家もあれば、汲取式の和式トイレや昔ながらの深くて狭い浴槽のままの場合もあります。本当に大変ですよ。誰もができる仕事じゃないです。生活介護だってそれぞれの利用者に合わせて、コミュニケーションをとるって大変です。買い物ひとつとっても利用者によっては『これはもっと安いはずだ』『もっと安いのを探したのか』とか、指定銘柄で買って来ても『このメーカーは嫌いになった』と言う人もいますからね。急に暴れる人もいます。それを基本一人で、他人の家で対処するんです。泣き寝入りしたまま辞めた方も多いでしょう」
なんだろう、理不尽な賃金体系で我慢ばかりを強いられる。人手不足どころか「働こうという人間がいなくなり始めた」仕事に共通しているのは「どうせ誰かがやるだろう」と国が見て見ぬふりをしていたら、誰もやる人がいなくなった、ということだ。
この国の急激な少子化や労働人口の減少、「日本人そのものがこれから減り続ける」という「自然減」になりかねない現実を前に、「代わりはいくらでもいる」という悪癖は国民全体が苦しむ形で次々と跳ね返ってきている。旧知のケアマネージャーの話では「首都圏なんかまだマシ、地方のホームヘルパー事情はさらに悪化している」とのこと。各訪問先の移動距離の長さと都市部に比べた賃金の安さ、労働人口の減少による人手不足から地方はさらに深刻な状況にある。ホームヘルパーがまったく来ない地域も現れ、「在宅介護難民」の問題が報じられている。
事業運営側、責任者の60代男性も語る。
「ホームヘルパーの求人を出してもめったに来ません。来てもすぐ辞める。知り合いを誘って、と言っても誰もやらない。ヘルパーするなら働かないほうがマシ、とか言われたそうです」