41期名人戦で加藤一二三を破り史上最年少名人に(1983年)

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 当時の僕は30代半ば。棋士たちと公私ともに深く付き合い、多くの時間を共有することによって、彼らの懐に飛び込みながら撮るスタイルを確立しつつあった。しかし谷川さんはまだ10代。将棋以外に共通の話題もないし、もちろん飲みに誘うこともできない。

 谷川さんはその3年後、21歳で名人位を獲り、一気に将棋界のトップに駆け上がったが、対局場での谷川さんには、どこか鎧を着たまま戦っているような印象を受けていた。神戸出身ながら、インタビューでは標準語を使う。しかも受け答えは非の打ちどころのない優等生だ。

 そんな谷川さんに「変化」を感じるようになったのは、しばらく後になってからのことである。

谷川に麻雀を指南する花村元司

谷川に麻雀を指南する花村元司

阪神大震災で被災

 谷川さんが名人になった2年後、当時中学生だった羽生さんがプロデビューを果たした。羽生さんのプロデビュー戦(1986年1月)の相手は、僕と仲がいい宮田利男・六段。羽生さんが勝利した後、将棋会館にいた谷川さんが感想戦に顔を出した。実はこのとき谷川さんに「羽生さんの将棋を見に行きませんか」と声をかけたのは僕だった。

 感想戦の様子は写真週刊誌『FOCUS』にも掲載されたが、ここから谷川さんと羽生さんの差はどんどん詰まっていき、5年後には並び立つライバルの関係になっていく。

 1992年、産経新聞の将棋担当記者だった福本和生さんから連絡をいただいた。

「谷川浩司の評伝連載を始めたいので、写真をお借りできないか」

 僕はもちろんOKした。連載のタイトルは「将棋七冠の夢・谷川浩司がゆく」。谷川さんが将棋界のタイトルを独占する日を予感させるものだったが、この連載中に羽生さんが谷川さんを猛追し、七冠を制覇するのはむしろ羽生さんなのではないかというムードすら漂い始めた。

 予想外に早く下の世代に迫られることになった谷川さんの表情に、本音と闘志が宿るようになり、それは写真にも反映されるようになった。僕は谷川さんとプライベートで飲み歩くような関係にはならなかったが、棋士としてさらなる高みを求める谷川さんと、カメラマンとしてさらに技術を磨きたいと思っていた僕の職業人としての向上心が、シンクロするようになった。

 1993年以降、羽生さんの勢いはさらに増し、谷川さんは次々とタイトルを剥がされていくが、羽生さんが七冠制覇をかけた1995年の王将戦では、阪神大震災で被災した谷川さんが意地を見せて防衛する。このときの谷川さんの表情は、“羽生さんに時代を明け渡すことはできない”という鬼気迫るものだった。

日本医科大で「棋士の脳波」研究に協力する谷川(左)と羽生善治

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