政治ジャーナリスト・藤本順一氏が語る。
「台湾有事を見据える麻生さんは、親中派の公明党の存在が岸田政権の足を引っ張ると危惧しており、総選挙後は自公に国民民主を加えた三党連立が望ましいと考えている。そのためには国民民主やその支援組織である連合との間に今後の予算編成や法案審議を通じた信頼関係醸成が不可欠で、現段階での解散は時期尚早との立場です。『がん』発言はその布石であり、準備不十分で解散総選挙に先走る公明党や首相にクギを刺すことで解散風を鎮めるメッセージでもあった」
一方の茂木幹事長も、「総選挙で自民党が議席を減らせば、真っ先に幹事長が責任を取らされる。茂木さんは岸田首相の暴走解散と心中する気は全くない」(側近議員)とされる。
首相がこのまま解散へと突っ走れば、麻生氏と茂木氏という政権の実力者2人が本気で阻止に回り、与党内が大きく軋む可能性が高い。
かつて海部俊樹・首相は「重大な決意」と一度は解散を口にしながら、当時自民党幹事長だった小沢一郎氏ら党幹部に阻止され、結局解散に踏み切ることができずに退陣へと追い込まれていった。
しきりに解散を匂わせる岸田首相もこの秋、2度目の断念に追い込まれれば、求心力を失って海部氏と同じ道を辿ることになるかもしれない。
解散・総選挙に踏み切れば大敗の可能性、解散断念なら野垂れ死にと、岸田首相にとってはまさに進むも地獄、退くも地獄なのである。
※週刊ポスト2023年10月20日号