若き日の羽生善治

祖父世代の棋士たちからも目をかけられた若き日の羽生

「大山先生と、囲碁を打っていただいたことも」

羽生 丸田先生は迫力がありましたよね(笑)。

弦巻 僕なんか若い頃は、丸田先生の顔を見るだけで逃げ回っていた(笑)。羽生さんも怖かったでしょう?

羽生 いえいえ。私がプロ入りした頃は、年齢的にもかなり離れていたこともあって、むしろすごくかわいがっていただいた記憶しかないんですよ。

弦巻 羽生さんは晩年の大山先生とも対局してますよね。

羽生 ええ、公式戦では確か8局教わりました。あと一度だけ、囲碁を打っていただいたこともあるんです。

弦巻 それはいつ頃のことですか。

羽生 私がデビュー間もない頃で、ある将棋まつりの控室で大山先生と2人だけになったことがあり、そのとき手持ち無沙汰の様子だった大山先生から「ちょっと打つ?」と言われました。大山先生は、何もせずじっとしているのがいちばん嫌いなんですね。

弦巻 そうそう。大山先生といえば僕はもっぱら「麻雀要員」として認知されていました。タイトル戦の控室で継ぎ盤(対局中の将棋を検討するために別室に設置される将棋盤)の前に座っていると大山先生がやってきて、「あんたが将棋の研究なんかしたって意味ないでしょ」と怒られる。要するに「これから麻雀するんだから、早く準備しなさい」という絶対命令なんですね。

麻雀卓を囲む大山(右)。左は先輩棋士の加藤治郎

麻雀卓を囲む大山康晴(右)。左は先輩棋士の加藤治郎

羽生 えっ? 大山先生は対局者ですよね。

弦巻 そう(笑)。それなのに、対局中に抜け出してきて関係者に麻雀打たせて、後ろからじっと見ているんだよね。記録係が呼びに来てもその場から動かない。「どこで考えても一緒なの」なんて言って、将棋より麻雀に熱中していましたからね。

羽生 昔のタイトル戦では、原稿を書く記者の方が、会場の設営なども担当されていて、それこそ麻雀卓を準備して自分も卓を囲むなど、いまと比べて棋士と関係者の間に一体感がありました。現在は、取材して記事を書く記者の方々と、運営を担当する事業部の方で役割分担していることが多いので、かつてのような濃密な人間関係はなくなりつつあるかもしれませんね。

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