「撮れた」と確信したら撮影を切り上げるスタイル
羽生 弦巻さんは、カメラマンでも入れないような場所、入ってはいけないはずの場所になぜか自然と入り込んで撮っているんですよ(笑)。ただ、それを咎めるような棋士はいなくて、「まあ、弦巻さんだから問題ないでしょう」と容認している。簡単そうに見えて、その境地に至るのは本当に大変だったでしょうね。
弦巻 限られた撮影時間のなかで、求められる写真は撮らなくてはいけない。だからといって、棋士に雑念やストレスをもたらすような撮り方は絶対にしてはならない。毎日が試行錯誤の連続でした。
羽生 デジタル時代のカメラマンは、たくさん枚数を撮って、そのなかからいい写真を選ぶというスタイルが主流なのかなと思います。その点、弦巻さんはデジタルカメラを使っていても、むやみにシャッターを切らないですよね。一撃のシャッターで「撮れた」と確信したら撮影を切り上げるスタイルには、長年にわたって将棋写真を撮ってこられたカメラマンならではの哲学を感じます。
【了。第1回から読む】
【プロフィール】
弦巻勝(つるまき・まさる)/1949年、東京都生まれ。日本写真専門学校を卒業後、総合週刊誌のカメラマンに。1970年代から将棋界の撮影を始め、『近代将棋』『将棋世界』など将棋専門誌の撮影を担当する。大山康晴、升田幸三の時代から中原誠、米長邦雄、谷川浩司、羽生善治、そして藤井聡太まで、半世紀にわたってスター棋士たちを撮影した。“閉鎖的”だった将棋界の奥深くに入り込み、多くの棋士たちと交流。対局風景だけでなく、棋士たちのプライベートな素顔を写真に収めてきた。日本写真家協会会員。
将棋カメラマン:大山康晴から藤井聡太まで「名棋士の素顔」(小学館新書)
Amazonから購入
Amazonから購入