「恋」は最善の老化対策
私が考える「老化対策」で最善の策は「恋」をすることです。実は、これは医学的にも理に適ったことなのです。
私たちの体は体内で作られ分泌されるさまざまなホルモンの働きによって調節されていますが、そのほとんどは高齢になるに従い、分泌量や濃度が低下します。なかでも老化に影響を与えるのが性ホルモンの分泌量の低下です。
男性の場合、早ければ40代からジワジワ始まる男性ホルモンの減少は、性欲だけでなく、好奇心や意欲、社交性、公共心といった特性をも弱めます。筋肉を増大させる男性ホルモンの働きも弱まるので、筋肉がつきにくく足腰は弱っていくばかりになってしまうのです。
しかし、恋愛をしていると、相手の気持ちや出方を探りながら「予測不可能」な状態が続くので、前頭葉の活性化が期待できます。また、恋愛中はセロトニンやオキシトシン、エンドルフィン、ドーパミンなど、幸福感や高揚感、安心、意欲、快感などポジティブな感情を呼び起こす神経伝達物質が大量に分泌されることもわかっています。
恋愛により男女ともに性ホルモンの分泌も活性化するので、年齢以上に見た目も若くなり、元気がみなぎってくることも事実です。実際、高齢者施設でも入所者同士が恋愛関係になるケースを耳にする機会が増えましたが、彼らは一様に元気で若返ったかのようだと言います。
恋愛ほど効果の期待できる老化予防策はないかもしれません。一人暮らしの親御さんがそうした出会いに恵まれたのだとしたら、本来子供ができること、すべきことは、関係がうまくいくよう支援することではないでしょうか。
「年甲斐もなくみっともない」「いい歳をして恥ずかしい」などとネガティブな評価をするのは禁物です。親御さんの交友関係については、相手が誰であれ、実害が出てから初めて心配すべきことでしょう。(了)
【プロフィール】
和田秀樹(わだ・ひでき)/1960年大阪府生まれ。東京大学医学部卒。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、国際医療福祉大学大学院教授、ルネクリニック東京院院長。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。『80歳の壁』は2022年の年間ベストセラー総合第1位(トーハン・日販調べ)に。