「いえ、茨城県出身です」と言うと、五木さんはちょっと残念そうに、「そうですか。故郷の女性たちが話していたイントネーションとよく似ていたから」とおっしゃられたの。

 緊張のあまり、なりふり構わず言葉を発したから茨城弁が変形したのか、もしかしたら遠い昔、九州と茨城は何かつながりがあったのか!? その後、九州を旅するたびに地元の人の言葉に耳をそばだてるのがクセになった。

 緊張といえば、これ以上緊張した人の集団とは会わないかもしれないと思う場が、5年前から続けている私のアルバイト先、衆議院第一議員会館の田所嘉徳事務所だ。茨城県選出の代議士を訪ねて茨城から大勢の来客がある。そのかたがたにお茶を出して、時には話し相手をするのが私の仕事なの。

 彼らを会議室に案内して、お茶を配ったところで、「わだし、まがべなんですよ(真壁町〈の出身〉なんですよ)」と茨城弁で挨拶をすると、まさに破顔一笑。緊張で風船をパンパンに膨らませた体中の空気が一瞬で抜けて、「あれ〜よ。茨城から通ってんのげ?」と言うときの笑顔ったらない。それがうれしくて、茨城から来客があると聞くと朝からそわそわしちゃう。

 思えば、私のプライベートな友達はほぼ幼なじみという時期が長かったの。都会人のような顔をしていても、どうしても茨城から離れられない。お腹の中にたまった感情を茨城弁で吐き出したい。

 親と気まずくなって半年以上帰省しなかったのは、あのときとこのときと数えられるくらいで、盆・暮・正月・年に2回のお彼岸、そのほかちょっと気が弱くなると、故郷に足が向いた。

 だから母親の先が長くないとわかったときは、実家に戻っての在宅介護をすんなり受け入れられた。

 こんな私に、わが郷里・桜川市が講演を依頼してくださったの。時は10月18日(水)。桜川市の「真壁伝承館」で午後1時からなので、お近くにお越しの節はどうぞいらしてくださいな。

【プロフィール】
「オバ記者」こと野原広子/1957年、茨城県生まれ。空中ブランコ、富士登山など、体験取材を得意とする。

※女性セブン2023年10月26日号

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