(写真/PIXTA)

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 Kさんを悩ませた起立性調節障害とは、成長期に自律神経がうまく働かず、起床時の血圧が急速に下がったり、脈拍が上がりすぎたりするため、頭痛やめまい、吐き気を引き起こし、朝起きられない病態を指す。

「2007年にガイドラインが確立され、以前は精神論で片づけられていた状態にきちんと病名がつくようになりました。ライフスタイルの変化により、精神的にストレスを抱える小中学生が増えていることから、近年、患者数は増加傾向です。スマートフォンの普及により、ブルーライトの影響で子供の体内時計が乱れることも、要因のひとつとされています」(医療関係者)

 全国の小児科医を束ねる日本小児心身医学会のガイドラインによると、10才から16才の思春期の子供に多く、小学生で約5%、中高生で約10%が患者といわれ、この症状で苦しむ中高生は全国に約70万人いるという。そのうち重症となり不登校につながるのは約7万人。全国で不登校に悩む30万人の約4分の1が、起立性調節障害を患っているという試算が成り立つ。

 一方の睡眠相後退症候群とは体内時計の乱れにより、睡眠時間帯が後ろにずれる病態を指す。悪化すれば昼夜逆転となり、通学も困難になる。重要なのは、起立性調節障害と睡眠相後退症候群は、ほぼ重なり合うという点だ。

7割前後の患者に効果

 起立性調節障害の専門外来を設けて治療にあたってきた災害医療センター(東京・立川市)で、小児科医長を務める松浦優子医師はこう話す。

「2つの病気はほぼ合併していると考えることが自然で、切り離すことは難しい。体内時計を正常に戻し、睡眠の問題を解決しない限り、朝起きられるようにはならないと考えています」

 起立性調節障害と診断されると血圧を上げ、脈拍を安定させる薬が処方されるほか、充分な水分や塩分の摂取が推奨される。軽症患者ならば快方に向かうこともあるが、中等症以上の患者となると、こうした治療の効果を実感できない患者も少なくない。

「症状が重くなると、こうした治療で病状を緩和させることは難しくなります」(前出・松浦医師)

 災害医療センターでは、2020年に設けた専門外来で80人近くの患者の治療に携わってきた。主治医の手に負えない難治性の患者が紹介されてくる同センターでは、治るのに3年から5年かかる患者が約半数、5年から10年かかるのが残りの半数。後者のうちの約1割は外出困難となる。

 起立性調節障害は、診断基準こそはできたものの、決め手となる治療法が見つからない病気として恐れられてきた。

 しかし、ここ数年、新しい治療方法が試みられている。冒頭のKさんが処方されたように、向精神薬〈アリピプラゾール〉を少量と、眠気を誘う〈メラトニン〉や睡眠導入剤である〈レンボレキサント〉を組み合わせて投与するやり方だ。

「朝起きられない子供たちに対しては、7割前後で効果が認められます」

 そう語るのは筑波大学・国際統合睡眠医科学研究機構の神林崇教授だ。

 アリピプラゾールとは本来、統合失調症の患者向けに作られた向精神薬で、通常、1日10mg程度の量が処方される。この場合、覚醒物質のひとつであるドーパミンを抑える働きをして、幻聴や幻覚が軽減される。しかし、1日0.5mgから1mgといった少量で服用すると、逆の働き、つまりドーパミンを活性化させる。

 神林教授らは8月、筑波大学の基礎研究チームとともに、マウスを使った実験でアリピプラゾールがどう働くかという機序を解明し、学術誌に論文を発表した。

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