小学1年生の冬にアマ初段になると、それからは将棋大会で優勝街道を突き進んでいく。教室では誰かが大会で入賞したときにはお祝い会が開かれる。聡太が優勝するたびに、恒例となっていった。
「ジュースとポテトチップスでの祝勝会なんですが、こんな小さな教室ですからジュース代を捻出するのも大変なんです。だから絶対にこぼすんじゃないと言っていたのに、あるとき聡太がコップをバシャーンとやって。もう大泣きしていましたよ」
今回、瀬戸市にある文本さんの自宅教室を訪ねた。八冠達成の2日前で、世間の将棋界への注目度は高まっていたが、教室は普段通りの様子だった。午後4時過ぎ、10人ほどの子供たちが集まっていた。玄関に脱がれた靴はすべてきれいに揃えてある。
部屋に入るとテーブルの上に置かれた1つの将棋盤を子供たちが熱心に取り囲んでいた。上達するには対局が終わった後の感想戦が大切だ。文本さんは「棋力が上の者が下の者を引き上げ、下の者は上の者に学ぶ。そうやってみんなが強くなっていく。仲間を思いやる気持ちが大切です」と話す。
あまり叱られたことはない
指導したすべての子が順調に上達できるわけではない。ただ伸びが遅い子でも、小学校高学年になって頭角を現すことがある。
「事前にわかることではありませんから、私たちはずっと見守っています。だから途中で諦めてほしくない」
教室の終わりに、頑張って勝った子に文本さんはクッキーを1つあげた。子供は手の中に握りしめ、迎えにきた母親の元に走って行く。
藤井の子供時代の様子を聞いてみた。