「まったく知らないアカウントから、マスコミに協力するな、マスコミは自分の足で取材しろ、といくつもリプライが来たり、ダイレクトメッセージが届きました。私としては協力したいと思っただけなのに、なぜ攻撃されるのかわかりませんでした」(横田さん)
横田さんを攻撃してきた人たちの言動は、ネットに根強く存在する「マスコミ嫌い」を公言するユーザーに多く見られるものだ。彼らはマスコミがSNS経由で依頼することを怠慢だと責め立てる。だが、火災や事故などの発生現場に居合わせた一般市民に情報提供を求めることは、インターネットが普及するより前から行われてきた、ごく一般的な取材手法である。
さらに、その発生が予測できない事件や事故の場合、マスコミがいち早く発生情報を覚知しても、現場に到着する頃には「発生後」になってしまう。従って、偶然、そこに居合わせた人に写真や映像などの提供を求めるのは不自然なことではない。もちろん、自然災害時など、危機的状況にある視聴者に記者が配慮なくSNS上で接触することは、ときに非難の対象になるが、度を過ぎたマスコミ攻撃は、本当に助けを求め、報じてほしいと思う側を萎縮させることにも繋がりかねず、たとえそれが正義感からだとしても、慎むべきだという見方も出始めているのが実情だ。
SNSで事件や事故が増えた気がする
もっとも、SNSの登場と普及によって「事件や事故が増えたように感じる」と現役の民放キー局記者(30代)は言う。
「SNSがあるために、覚知する事件や事故の情報が増えた印象があります。また、SNSで発信されると、事件や事故が実際の規模より大きくネットユーザーたちに受け止められることもある。ネットで大きく関心を集める事案は無視できない時代になったので、ニュースとして報じるべき公益性があるかどうか、それらをひとつひとつ確認しなければなりません」
前出の横田さんが「”いいですよ”と返事をするだけで終わらなかった」と振り返ったが、もちろんそうした一見「面倒な対応」は、記者にとって情報の「裏取り」のために必要なことだったのだ。許諾だけで済んだケースもあったのは、消防や警察からの情報や、ほかの目撃者などから別のルートで確認がとれていたはずだ。
どんなテレビ局の報道も、視聴者やネットユーザーから借りた素材を撮影者から受け取るだけで放送することはない。記者は映像を借りるだけではなく、火災や事故なら警察や消防に事実関係の取材をして、借りた映像が本当にその場所で、その時に撮影されたものなのかについて真偽を確かめる。さらに、現場に行って事後の撮影をしたり、具体的にどんな被害が発生したのか、周囲への影響が出ていないかの取材を続ける。このようなプロセスを経て、初めて視聴者映像は放送という形で視聴者に届けられる。