地域によっては祭壇前で親族たちの集合写真を撮ったり、祭壇の様子を写真に残すことはある。だがそれは遺族がみずから行うものであって、遺族そっちのけで行われることではない。高橋さんの無神経な親族はその後、火葬場に移動し最後の別れの瞬間、悲しみに暮れる参列者をよそに、スマホを棺の中に差し入れたのである。
「思わず、何をするんですかと叫んでしまいましたが、親族は”最後だから残しておかないと”と反論してきて、そのまま撮影を続けました。あまりにも非常識で、今すぐ出ていって欲しかったのですが、母との最後の別れを台無しにするわけにもいかず、悔しさを我慢するしかありませんでした」(高橋さん)
会葬御礼のメッセージに添付されていた写真
これまでにも、SNSに遺体の写真を上げたことで大炎上したという事例はいくつかあった。だが、ほとんどの場合、写真や映像をアップするのは子供や若者で、悲しみのあまりか、余り深く考えずにやってしまったと投稿を消したり、謝罪に追い込まれるパターンがほとんどだった。
埼玉県在住の会社員・嶋崎あやかさん(仮名・20代)は昨年、恩師の死去に伴い葬儀に参加したが、その後、恩師の妻からあるメッセージをSNSで受け取り困惑した。
「葬儀の際にも、お父さんの顔を最後に見て欲しい、とお願いされて参列した友人とお別れをしました。奥さんは憔悴しきっていてお声がけするのも躊躇するほどで本当に気の毒でしたが、葬儀から2~3日経った後、SNSでお礼のメッセージと、棺の中の先生の写真が一緒に送られてきました」(嶋崎さん)
とにかくお礼のメッセージを返信するしかなかったが、参列した友人達からは「先生のことは好きだったが正直気持ちが悪い」との声が相次ぎ、これには嶋崎さんも同調するしかなかった。
「先生に長年寄り添った奥様ですから、写真を撮るべきではないとは言いません。ただ、ご遺体の写真をみんなに送るのはどうかなと思います。先生には本当にお世話になりましたし、往時のお元気な姿が忘れられない。でも、やせて小さくなった先生の最後の写真のインパクトが強烈すぎて、昔の良い思い出、先生の元気な姿を忘れてしまいそうになっています」(嶋崎さん)
常識がわからない若者が、その場の勢いだけで「アップしてしまう」のとは違い、中高年でこうしたトラブルを起こしてしまう人は、そもそも言動の発信点が「記念に撮っておいてあげよう」とか「みんなにも見てもらいたい」という彼らなりの善意であることが多い。したがって、注意したところで不思議な顔をされたり逆に怒りを買ったりするのだから、やられた側にとってはより始末が悪いのだ。